政談 / 金銀錢員數減少する仔細の事
偖錢の直段のこと慶長の頃は一兩に四貫文なりと承はる、其錢國々へ行き亘りて段々不足する故、松平伊豆守大佛を鑄崩して錢とするより錢の員數殖えてこの三四十年以前は一兩に五貫文したり、元祿の頃より復た四貫文になる、正德の末に一步に六七百文したるは、乾金の吹き直しなるへきことを知りて、損をすましきために、急に上けたることなれは、商人の私にて錢の員數によりてのことにてはなきなり、今また一兩に四貫文の內外になりて、夫より下へ下らぬこと是れ錢の減少したる筋あり、其道理二つあり、
新字:偖銭の直段のこと慶長の頃は一両に四貫文なりと承はる、其銭国々へ行き亘りて段々不足する故、松平伊豆守大仏を鋳崩して銭とするより銭の員数殖えてこの三四十年以前は一両に五貫文したり、元禄の頃より復た四貫文になる、正徳の末に一歩に六七百文したるは、乾金の吹き直しなるへきことを知りて、損をすましきために、急に上けたることなれは、商人の私にて銭の員数によりてのことにてはなきなり、今また一両に四貫文の内外になりて、夫より下へ下らぬこと是れ銭の減少したる筋あり、其道理二つあり、
書き下し
偖銭の直段のこと慶長の頃は一両に四貫文なりと承はる、其銭国々へ行き亘りて段々不足する故、松平伊豆守大仏を鋳崩して銭とするより銭の員数殖えてこの三四十年以前は一両に五貫文したり、元禄の頃より復た四貫文になる、正徳の末に一歩に六七百文したるは、乾金の吹き直しなるへきことを知りて、損をすましきために、急に上けたることなれは、商人の私にて銭の員数によりてのことにてはなきなり、今また一両に四貫文の内外になりて、夫より下へ下らぬこと是れ銭の減少したる筋あり、其道理二つあり、
現代語訳
さて、銭の相場のことは、慶長の頃は一両に四貫文であったと聞いている。その銭が国々へ行き渡って段々不足したので、松平伊豆守が大仏を鋳つぶして銭にしたことから銭の数が増えて、この三四十年前は一両に五貫文した。元禄の頃からまた四貫文になった。正徳の末に一分に六七百文したのは、乾金が吹き直されるはずだと知って、損をしないために急に上げたことなので、商人の私事であって、銭の数によってのことではないのである。今また一両に四貫文前後になって、それより下に下がらないのは、これは銭が減少した筋がある。その道理は二つある。
解説
この章句が説くこと
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『政談』金銀錢員數減少する仔細の事然るを銭の員数少くなれは銭の位貴くなる故、金銀もそれに連れて貴しと云ふ人あれとも、其は物の情を全く知らぬ人にて、是非を変乱する利口の侫人なり、総して直段の至極に下直なるは銭一文に売ることにて之より下直なる物はなし、銭少なくなりて貴きとて一文を二つにも三つにも割りては遣はれぬものなり、故に銭をは至極の賤しきものに極めて、是れを土台にして金銀の威光働きの強き弱きは見ることなり、右の道理なる故銭を夥しく出すときは金銀の半減に成りたるは左まて苦にはならぬことなり、されとも銭を鋳殖したるばかりにて旅宿の境界を改めす、制度を立てすんは当分は世界湿ふやうなるへけれとも、唯々元禄金銀を其儘に手を付けす矢張り置きたる心持なる故、世界の奢り復た盛になりて果ては又困窮になるへきなり、
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『政談』諸色直段の事諸色の直段のことは近年上の御世話にて少々は下直なるやうになれとも、其の取捌き根本諸色の直段年を逐て段々に高直に成る謂れあり、是に立入らさる時は皆当分の策略にて何の用に立たさることなり、只今金の員数元禄金乾金の時分の半分に减し、銀は四つ宝のときの三分一なり、されは諸色の直段元禄金乾金の時分の半分より内に下されば未た本の位にあらす、此四五十年以前に比すれは多くは十倍二十倍なり、されは世界の困窮尤のことにて之を下くる道を吟味せすして叶はさることなり、
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『政談』金銀錢員數減少する仔細の事一つには銭の員数少なくならすとも、元禄以後取り分け商人田舎の末々山の奥迄も行きわたるによりて、金銀も銭も田舎へ多く成りゆきたるなり、金銀は旅に自由に持たるゝ故遠方よりも早く帰ることなれとも、銭は重きものにて旅て所持するに不便利なるもの成る上に、田舎まて商人行きわたりて田舎のものとも今は物を買ふことを知りたれは、不断の小用は銭にて足らぬことなる故、銭は皆他の所々に滞ふりて御城下へは返り難きことなり、是によりて銭の員数減少せすとも、商人の広く行きわたる程銭引張りたらぬ道理にて不足することなり、二つには実に減少したることあり、松平伊豆守仏の大慈悲をよく会得して、大仏を鋳崩して銭に吹きたるを、後生願ふものともの勿体なきことなりとてその銭を見当り次第拾ひ集めて仏像を鋳、或は鐘を鋳るたゝらの内へ入れて今は大方なくなりたり、ふだんの大仏銭は熙書に変りありて見分のなる故なり、その外火事にも焼け、又湯殿山の水中へも投入れ、浅間山の火の中へも投入れ、六道銭とて地中に埋むも積りて莫大なるへけれは、実にも減少したるなるへし、
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『政談』金銀錢員數減少する仔細の事惣して金銀を金付石にて試みて位の善きと云ふ両換屋なと云ふことにて大に愚かなることなり、其仔細は元禄に金銀に歩を入れて金の性悪けれとも銭の直段左まて変らねは、慶長も金の位変ること無し、当時元禄金銀を吹過きて性は善くなりたれとも銭の直段元禄と変らねは是亦元禄と全く位変らぬなり、一両は矢張り一両なり、一両を二両にも遣れす、されは性善く成りたる詮はなし、元禄の金銀を吹直さず性の悪しきまゝに鋳て、世界の金銀を半分より内に減したると全く同意なり、されは世界の困窮したる筈のことなり、金銭を夥しく吹き出して一両に七八貫文にしたらは、金銀の員数は半分に減したるとも位一倍善くなる故、元禄の金銀を矢張り吹直さす置きて、金銀の員数元の如く成ると全く同意なるへし、金銀の真の位と云ふものは銭高くなれは位下らて金銀の威光働き少く、銭賤くなれは位上かり金銭の威光働き強くなることにて、金銀の性の善きは何の詮もなきことなり、譬へは召使を夥しく持ちたるを大身とし、召使少なく持ちたるを小身者とするか如し、
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『政談』金銀錢員數減少する仔細の事然るを今金銀半分の内に減り、慶長の昔に帰れとも、世界の奢り風俗の常となりたる所は慶長の頃と遥かに異なり、殖たる竈も昔に帰らされは、人々半身代になりて世界困窮なる筈のことなるを、世界は善くなる筈のことと云ふは世界の全体の姿を知らぬ愚眼とも云へし、諸色の高直に成りたるは全く元禄の時金銀に歩を入れて金銀の位悪くなる故に高直になりたるにもあらす、又た金銀の員数殖えたる故に高直に成りたるにもあらす、元来旅宿の境界に制度なき故世界の商人盛に成るより事奢りて様々のことを取交せて次第〳〵に物の直段高くなりたる上に、元禄に金銀殖えたるより人々奢り益々盛になり、田舎まても商人行き亘り諸色を用ゆる人益々多くなる故、益々高直に成りたるなり、左様に成りたる世の有様をは其儘に仕置きて当時金銀ばかりを半減になしたる故、世界半身代に成と金銀引張り足らす、之によりて世界困窮したること明かなり、
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『政談』金銀錢員數減少する仔細の事偖又金銀の員数を元禄の頃に比すれは半分より内になりたれとも、慶長の昔に返る故慶長の頃の如く世も過きやすき筈のことなり、金銀の性善くなりたれは諸色も下直になる筈のことなれとも、町人のいたづらにて諸色の直段を下けたと云ふ人あれとも、是亦世界の有様を知らぬ人の云たることなり、慶長の頃より今日に至りては既に百年に及ふ、其時よりは段々に世上の人高下貴賤に限らす人々の身持ち、家の暮し覚えず奢りになり、今は又其奢り世の風俗となりて世界の常と成る故之をやむへきやうなし、其仔細は前に云ひたる如く、元来制度なきより起りて、人々の暮しに物入り多くなりたり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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