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政談 / 金銀錢員數減少する仔細の事

惣して金銀を金付石にて試みて位の善きと云ふ兩換屋なと云ふことにて大に愚かなることなり、其仔細は元祿に金銀に步を入れて金の性惡けれとも錢の直段左まて變らねは、慶長も金の位變ること無し、當時元祿金銀を吹過きて性は善くなりたれとも錢の直段元祿と變らねは是亦元祿と全く位變らぬなり、一兩は矢張り一兩なり、一兩を二兩にも遣れす、されは性善く成りたる詮はなし、元祿の金銀を吹直さず性の惡しきまゝに鑄て、世界の金銀を半分より內に減したると全く同意なり、されは世界の困窮したる筈のことなり、金錢を夥しく吹き出して一兩に七八貫文にしたらは、金銀の員數は半分に減したるとも位一倍善くなる故、元祿の金銀を矢張り吹直さす置きて、金銀の員數元の如く成ると全く同意なるへし、金銀の眞の位と云ふものは錢高くなれは位下らて金銀の威光働き少く、錢賤くなれは位上かり金錢の威光働き強くなることにて、金銀の性の善きは何の詮もなきことなり、譬へは召使を夥しく持ちたるを大身とし、召使少なく持ちたるを小身者とするか如し、

新字:惣して金銀を金付石にて試みて位の善きと云ふ両換屋なと云ふことにて大に愚かなることなり、其仔細は元禄に金銀に歩を入れて金の性悪けれとも銭の直段左まて変らねは、慶長も金の位変ること無し、当時元禄金銀を吹過きて性は善くなりたれとも銭の直段元禄と変らねは是亦元禄と全く位変らぬなり、一両は矢張り一両なり、一両を二両にも遣れす、されは性善く成りたる詮はなし、元禄の金銀を吹直さず性の悪しきまゝに鋳て、世界の金銀を半分より内に減したると全く同意なり、されは世界の困窮したる筈のことなり、金銭を夥しく吹き出して一両に七八貫文にしたらは、金銀の員数は半分に減したるとも位一倍善くなる故、元禄の金銀を矢張り吹直さす置きて、金銀の員数元の如く成ると全く同意なるへし、金銀の真の位と云ふものは銭高くなれは位下らて金銀の威光働き少く、銭賤くなれは位上かり金銭の威光働き強くなることにて、金銀の性の善きは何の詮もなきことなり、譬へは召使を夥しく持ちたるを大身とし、召使少なく持ちたるを小身者とするか如し、

書き下し

惣して金銀を金付石にて試みて位の善きと云ふ両換屋なと云ふことにて大に愚かなることなり、其仔細は元禄に金銀に歩を入れて金の性悪けれとも銭の直段左まて変らねは、慶長も金の位変ること無し、当時元禄金銀を吹過きて性は善くなりたれとも銭の直段元禄と変らねは是亦元禄と全く位変らぬなり、一両は矢張り一両なり、一両を二両にも遣れす、されは性善く成りたる詮はなし、元禄の金銀を吹直さず性の悪しきまゝに鋳て、世界の金銀を半分より内に減したると全く同意なり、されは世界の困窮したる筈のことなり、金銭を夥しく吹き出して一両に七八貫文にしたらは、金銀の員数は半分に減したるとも位一倍善くなる故、元禄の金銀を矢張り吹直さす置きて、金銀の員数元の如く成ると全く同意なるへし、金銀の真の位と云ふものは銭高くなれは位下らて金銀の威光働き少く、銭賤くなれは位上かり金銭の威光働き強くなることにて、金銀の性の善きは何の詮もなきことなり、譬へは召使を夥しく持ちたるを大身とし、召使少なく持ちたるを小身者とするか如し、

現代語訳

総じて金銀を試金石で試して、質が良いの何のというのは両替屋などの言うことで、大いに愚かなことである。そのわけは、元禄に金銀に混ぜ物を入れて金の質は悪くなったけれども、銭の相場がさほど変わらなかったので、慶長の金と値打ちは変わらなかった。当節、元禄金銀を吹き直して質は良くなったけれども、銭の相場が元禄と変わらないので、これまた元禄と値打ちはまったく変わらないのである。一両はやはり一両である。一両を二両分にも使えはしない。それならば質が良くなった甲斐はない。元禄の金銀を吹き直さず、質の悪いままに鋳て、世の中の金銀を半分以下に減らしたのとまったく同じことである。それならば世の中が困窮したのも当然である。銭をおびただしく鋳出して一両に七八貫文にしたならば、金銀の数は半分に減ったとしても、値打ちは倍良くなるので、元禄の金銀をやはり吹き直さずに置いて、金銀の数が元どおりになったのとまったく同じことになるであろう。金銀の本当の値打ちというものは、銭が高くなれば値打ちが下がって金銀の威光・働きは少なく、銭が安くなれば値打ちが上がって金銀の威光・働きが強くなることであって、金銀の質が良いのは何の甲斐もないことである。たとえば、召使いをおびただしく持っている者を大身とし、召使いを少なく持っている者を小身とするようなものである。

解説

徂徠は、金銀の品位を試金石で論じるのは両替屋の愚論だと言い切る。金貨の値打ちは含有量ではなく、日常に使う銭との交換比率で決まる。元禄の悪鋳でも銭相場が変わらなければ値打ちは同じで、正徳の良鋳で質を上げても一両は一両のままであり、結局は通貨量を半減させただけだという。銭を大量に鋳て一両七八貫文にすれば金銀の働きは倍になると説く。通貨の価値を素材ではなく流通と交換関係で捉える見方は、現代の貨幣論にも通じる鋭い洞察である。

この章句が説くこと

通貨金銀銭価値改鋳両替

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