政談 / 御旗本諸士の困窮を救ふ事
右に段々記したる通り制度を立つると旅宿の境界を巳むると、此二つ困窮を巳むる根本也、世話しなき風俗の事は上の思召老中の心得にあることなれは今更之を已むる仕方とて別にはなし、大抵此通りなれとも困窮の上にも近年困窮甚しくなりたる仔細三色あり、一つには諸色の直段高直に成たること、二つには金銀の數減少したること、三つには貸借の道塞かりて少なき金銀流通せさること是なり、是に由りて此三色の手當なきときは行き支へ有るべきなり、其手當左に記す、
新字:右に段々記したる通り制度を立つると旅宿の境界を巳むると、此二つ困窮を巳むる根本也、世話しなき風俗の事は上の思召老中の心得にあることなれは今更之を已むる仕方とて別にはなし、大抵此通りなれとも困窮の上にも近年困窮甚しくなりたる仔細三色あり、一つには諸色の直段高直に成たること、二つには金銀の数減少したること、三つには貸借の道塞かりて少なき金銀流通せさること是なり、是に由りて此三色の手当なきときは行き支へ有るべきなり、其手当左に記す、
書き下し
右に段々記したる通り制度を立つると旅宿の境界を巳むると、此二つ困窮を巳むる根本也、世話しなき風俗の事は上の思召老中の心得にあることなれは今更之を已むる仕方とて別にはなし、大抵此通りなれとも困窮の上にも近年困窮甚しくなりたる仔細三色あり、一つには諸色の直段高直に成たること、二つには金銀の数減少したること、三つには貸借の道塞かりて少なき金銀流通せさること是なり、是に由りて此三色の手当なきときは行き支へ有るべきなり、其手当左に記す、
現代語訳
右に段々記したとおり、制度を立てることと、旅宿の境遇をやめることと、この二つが困窮をやめさせる根本である。せわしない風俗のことは、お上の思し召しと老中の心得にあることなので、今さらこれをやめさせる方法として別にはない。おおよそこのとおりであるが、困窮の上にも近年困窮がひどくなったわけが三つある。一つには諸物の値段が高くなったこと、二つには金銀の数が減ったこと、三つには貸し借りの道がふさがって、少ない金銀が流通しないことである。これにより、この三つの手当てがなければ行き詰まるであろう。その手当てを左に記す。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『政談』諸色直段の事偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元来貴き人は善きものを用ひ、賤きものは悪きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に来集る民は素は田舎のものにて、麦粟種等の雑穀を食し、濁酒を飲み、味噌をも食せす、すくも火を焼き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寝臥をしたるものか、心儘に御城下に来住する故、米味噌を食し、薪を焼き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飲み、田舎に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、畳を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、
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『政談』諸色直段の事之のみにあらす、田舎のものも江戸の御城下を見習ひて、是亦金次第に何ことも江戸の町人に負けし劣らしと奢りをすることに今は成りたり、武家の数と町人百姓の数とを比量して見しに、町人百姓の人数は武家の百惣倍成るへし、其人ともに制度なき故何れも金次第に善きものを用ゆることに成ては、物の直段は未た左まては上らぬようなり、是亦た諸色を造り出たす人も代と連れて多くなりたる故に、右の人積り程は上からねとも、天地より生するものには限り有る故用ゆる人多きによりて斯の如く上りたるなり、斯の如く田舎へ擴かること一旦のことにあらす、年々を積りて段々擴かり行ことなる故、四五十年以前と只今と諸色の直段十惣倍の上に成りたるなり、平人は偖措き乞食の輩も江戸も田舎も今は平人と変りなきは奇怪のことならすや、此用ゆる人多き故物の直段高直に成りたる筋は、制度を立てゝ町人百姓を厳しく制度せは諸色過半下直になるへし、
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『政談』制度の事是れ町人百姓憎むにあらす、頭か身上右の如くの奢りによりて物入り多く、暮しに物入ること今は常に成りたれは、此の制法出しぬること頭か為めにもよき事なり、第一右の諸物を町人百姓心の儘に用ゆる故、諸色の直段日を逐ふて高直なり、然れとも此の吟味竿の先きに鈴を付けたるやうなることにては仲々参り届くましきなり、当時吉利支丹の如く厳密にさかすへきことなり、されとも畢竟武家を知行所に置くにあらされは此の法田舎迄行渡りかたかるへし、先つ武家には制度を立てす、唯々斯の如く百姓町人に計り制度を立つるときは、諸色特の外に下直になるへし、左様に四五年もして武家に息をつかせ、其の上にて武家にも制度を委細に立ては御政道滞ほりなく行きわたるへし、是れ緩急先後の仕掛なり、
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『政談』當時制度之なき事偖上下の分別を立つることは上たる人の身をたかぶりて下を賤しむる心より制度を立つるにはあらす、惣して天地の間に万物を生すること各其限りあり、日本国中に米如何程生する、雑穀如何ほと生する、材木如何程生して何ケ年を経て是程の材木になると云ふより、一切の物皆な各々其限りあることなり、其内に善きものは少なく悪しきものは多し、これによりて衣服食物家居に至る迄貴き人には善きものを用ひさせ、賤き人には悪しきものを用ひさするやうに制度を立る時は、元来貴き人は少なく、賤き人は多き故、少なきものを人少なく用ひ、多き物を多き人か用ひて道理相応し、行支なく日本国中に生するものを日本国中の人か用ひて事足ることなり、此制度立さるときは其数夥しき賤き人か数少なき善きものを用ゆる故事足らす物の価高直になる、又其数多き賤き人にも善きものを望みに叶ひ用ひさせんとする故其善きものも次第に粗相に成て行く、又上下混乱する故騒動と成りて、諸の悪事これより生するなり、
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『政談』諸色直段の事されとも是等は末のことなり、末に取つきては仲々商人の智恵には及ひかたし、畢竟する所皆武家旅宿の境界より出たる悪弊なる故、其本に返りて武家の皆々土に有り付置て、初巻に記したる米をしむる一術を用ひは、商人の勢ひ忽に哀て物の直段は心の儘に成へし、然れは畢竟物の直段高きも旅宿と制度なきとの二つに帰することなり、
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『政談』當時制度之なき事されとも元来世に連れて出来たることにて正しく制度はなき事なれは畢竟取り守るへき定格はなし、一年倹約の仰せ渡されあれとも、元来制度なきこと故仰出さるへきやうなし、たゝ何百目以上のもの用ゆましきとのことなり、物の品にては別けすして価を以て分つこと、価は時に随て高下もする、畢竟商人なくては価は知らぬことなれは唯々仰出されたるまてにて、人々之を守るやらん背くやらん知る人は無し、兎角制度を立てすして倹約は決して立たぬことなり、右に云ふ如き旅宿の境界にて自由便当なる御城下に「セワシナキ」風俗に制度なきを捏合せて兎角金なけれは成らぬ世界となり極まりたり、当時大名程大禄高官なるものなく安楽も至極すれとも、下家中の世話あり、国中の仕置あり、上に御奉公の筋ありて左右に同格のつき合ひつめひらき有り安楽なるやうにて又苦も甚たし、身貴けれは身持も自由ならす、気のつまること勝なり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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