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政談 / 諸色直段の事

偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元來貴き人は善きものを用ひ、賤きものは惡きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に來集る民は素は田舍のものにて、麥粟種等の雜穀を食し、濁酒を飮み、味噌をも食せす、すくも火を燒き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寢臥をしたるものか、心儘に御城下に來住する故、米味噌を食し、薪を燒き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飮み、田舍に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、疊を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、

新字:偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元来貴き人は善きものを用ひ、賤きものは悪きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に来集る民は素は田舎のものにて、麦粟種等の雑穀を食し、濁酒を飲み、味噌をも食せす、すくも火を焼き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寝臥をしたるものか、心儘に御城下に来住する故、米味噌を食し、薪を焼き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飲み、田舎に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、畳を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、

書き下し

偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元来貴き人は善きものを用ひ、賤きものは悪きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に来集る民は素は田舎のものにて、麦粟種等の雑穀を食し、濁酒を飲み、味噌をも食せす、すくも火を焼き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寝臥をしたるものか、心儘に御城下に来住する故、米味噌を食し、薪を焼き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飲み、田舎に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、畳を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、

現代語訳

さてまた、用いる者が多いので値段が高くなる。この用いる者が多いのは、制度がないことから起こっている。もともと身分の高い人は良い物を用い、身分の低い者は粗末な物を用いるときは、物がそれぞれその所を得るので、諸物の値段は高くならないのに、今は身分の低い者までも良い物を用いるというのはどういうことかといえば、御城下に集まって来る民はもとは田舎の者で、麦・粟・稗などの雑穀を食べ、濁り酒を飲み、味噌も食べず、すくも(籾殻など)を焚き、麻や木綿を織って着て、むしろやこもの上に寝ていた者が、思いのままに御城下に来て住むので、米・味噌を食べ、薪を焚き、炭火にあたり、衣服も買い調えて着て、良い酒を飲み、田舎にはない障子を立て、天井を張り、唐紙(襖)を張り、畳を敷き、蚊帳を吊るなどすることは、棒手振り(行商人)もみなこのとおりである。少し裕福な町人は、衣服・食事・住まい・器物まで、金さえあれば大名と同じことで、誰も制する者がない。これは諸物を用いる人が多いので、諸物の値段が高いのはもっともである。

解説

物価高の第三の理由を、徂徠は需要の膨張に見る。田舎で雑穀を食べむしろに寝ていた人々が城下に流れ込むと、米や薪、畳や蚊帳を買う暮らしになり、富裕な町人は金さえあれば大名並みの暮らしをする。身分に応じた消費の制度がないために需要が膨らみ値が上がるという論で、身分制を前提とした主張ではある。だが人口の都市集中と生活水準の上昇が需要と物価を押し上げるという観察は、現代の都市経済を考えるうえでも示唆を含む。

この章句が説くこと

制度物価需要都市奢り消費

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