政談 / 公儀御身上の制度の事
小普請金と云ふことその遺法なり、京都在番にも此遺法今に殘れりと承はる、金を取り日用を雇ふより御城下に遊民多くなり、又日用の請負に付きさま〳〵の奸曲あるなり、諸事の義皆斯の如く吟味して御買上けなくならは、天下のたもち玉ふ古法に叶ひ公儀に御勝手ならせられすと云ふことも永く之なく、御役人も當時のやうに算盤を離さぬやうにせす、大やうに搆へても埓あき見ことなる世界なるへし、御役をする面々何れも不學にて此譯は知らす、天下に生する我かものをは人のものにして、偖大切に圍ひ置へき米を賣拂て金にして夫を御買上にして御用を辨することにては、何ほと御儉約と云ひてもいつまても手の離されぬことにて、偖末に成りては其儉約も參り屆くましきなり、昔は算盤なとは武士の手にかけるものにてはなきを、儉約と云ことのはやるより利勘を先きとする世界になりたること、古法にとをからすして風俗の直ることも亦有ましきなり、
新字:小普請金と云ふことその遺法なり、京都在番にも此遺法今に残れりと承はる、金を取り日用を雇ふより御城下に遊民多くなり、又日用の請負に付きさま〳〵の奸曲あるなり、諸事の義皆斯の如く吟味して御買上けなくならは、天下のたもち玉ふ古法に叶ひ公儀に御勝手ならせられすと云ふことも永く之なく、御役人も当時のやうに算盤を離さぬやうにせす、大やうに搆へても埓あき見ことなる世界なるへし、御役をする面々何れも不学にて此訳は知らす、天下に生する我かものをは人のものにして、偖大切に囲ひ置へき米を売払て金にして夫を御買上にして御用を弁することにては、何ほと御倹約と云ひてもいつまても手の離されぬことにて、偖末に成りては其倹約も参り届くましきなり、昔は算盤なとは武士の手にかけるものにてはなきを、倹約と云ことのはやるより利勘を先きとする世界になりたること、古法にとをからすして風俗の直ることも亦有ましきなり、
書き下し
小普請金と云ふことその遺法なり、京都在番にも此遺法今に残れりと承はる、金を取り日用を雇ふより御城下に遊民多くなり、又日用の請負に付きさま〳〵の奸曲あるなり、諸事の義皆斯の如く吟味して御買上けなくならは、天下のたもち玉ふ古法に叶ひ公儀に御勝手ならせられすと云ふことも永く之なく、御役人も当時のやうに算盤を離さぬやうにせす、大やうに搆へても埓あき見ことなる世界なるへし、御役をする面々何れも不学にて此訳は知らす、天下に生する我かものをは人のものにして、偖大切に囲ひ置へき米を売払て金にして夫を御買上にして御用を弁することにては、何ほと御倹約と云ひてもいつまても手の離されぬことにて、偖末に成りては其倹約も参り届くましきなり、昔は算盤なとは武士の手にかけるものにてはなきを、倹約と云ことのはやるより利勘を先きとする世界になりたること、古法にとをからすして風俗の直ることも亦有ましきなり、
現代語訳
小普請金ということはその名残の法である。京都在番にもこの名残が今に残っていると承っている。金を取って日雇いを雇うようになってから、御城下に遊民が多くなり、また日雇いの請負についてさまざまな悪だくみがある。諸事についてみなこのように吟味して御買い上げがなくなれば、天下をお保ちになる古法にかない、公儀の御勝手(財政)が立たないということも永くなくなり、御役人も今のように算盤を手放さないということはなく、おおようにかまえても事が済む、見事な世の中になるだろう。御役を務める面々はいずれも学問がなく、このわけを知らない。天下に生じる我が物を他人の物にして、さて大切に囲っておくべき米を売り払って金にし、それで御買い上げをして御用を足しているのでは、どれほど御倹約といっても、いつまでも算盤から手が離せないことで、さらに末になってはその倹約も行き届かなくなるだろう。昔は算盤などは武士の手にかけるものではなかったのに、倹約ということがはやったことから、損得勘定を先にする世の中になったのは、古法に返らなくては、風俗が直ることもまたないであろう。
解説
この章句が説くこと
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『政談』公儀御身上の制度の事されはいつまても〳〵御代の伝らん程は日夜朝暮に御役人は御倹約の筋を第一と、息を切り、ひつらをはり世話をやくことを務めとし、後には夫も届ぬことになるへけれは、畢竟詮もなきことゝ云ふに詰きることなり、其上当時上下旅宿の境界を其儘にし置きては、何もかも皆金の沙汰になる事故、倹約の筋を専らとするほと唯々上には金をたむることを御好み遊はさるゝと云ふやうに万民皆思ひなして、遠国迄も左様に思ひ後代も左様に沙汰せんこと無念の次第なるへし、是唯々詮なきと云ふのみにあらす其害亦甚しきなり、偖は旅宿の仕掛を已むると云ふは、御買上けを已むることなり、御買上けを已むる仕方は、如何やうなることなれは古代の御代、この諸侯の国には土産の貢あり、夫より以後歴代の帝王、又日本の古も県郡の代なれば故ら国々より土産の貢を上ること書籍のをもて明白なり、
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『政談』當時制度之なき事されとも元来世に連れて出来たることにて正しく制度はなき事なれは畢竟取り守るへき定格はなし、一年倹約の仰せ渡されあれとも、元来制度なきこと故仰出さるへきやうなし、たゝ何百目以上のもの用ゆましきとのことなり、物の品にては別けすして価を以て分つこと、価は時に随て高下もする、畢竟商人なくては価は知らぬことなれは唯々仰出されたるまてにて、人々之を守るやらん背くやらん知る人は無し、兎角制度を立てすして倹約は決して立たぬことなり、右に云ふ如き旅宿の境界にて自由便当なる御城下に「セワシナキ」風俗に制度なきを捏合せて兎角金なけれは成らぬ世界となり極まりたり、当時大名程大禄高官なるものなく安楽も至極すれとも、下家中の世話あり、国中の仕置あり、上に御奉公の筋ありて左右に同格のつき合ひつめひらき有り安楽なるやうにて又苦も甚たし、身貴けれは身持も自由ならす、気のつまること勝なり、
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『政談』公儀御身上の制度の事公儀御身上の事は右に云ひたる通り、旅宿の仕掛を改めずしては豊かなることは之なき事なり、当時御役人打寄り詮議して時々倹約をして費なきやうにすと雖も、末々御物数寄も替り行くときに至りては復た元の如くなるへし、然れは当分飯の上の蠅を逐ふとやらん云ふやうなることにて詮も之無きことなるへし、又当分詮議を仕つめたる御倹約の位を定格とさため、末々これを守らせたらんには格極まるゆゑ、末永く費もあるましきと思ふ人も多かるへけれとも、それは当せんを知りて前後を知らぬ、了簡鼻の先きの智恵と云ふべし、其仔細某覚えても五六十年以前より只今まての間、世の風俗移り行くに随ひて物の直段の高直になること二十倍にも及ふへし、況て某か未た生れさる以前百年先きより見たらは又若干のことなり、過き去る昔を以て移り行く後を考ふるときは、此以後亦世の移り行くに随ひて世間益々つまり行んこと、是亦過き去る昔より段々当時のやうに成り下りたる如く次第に悪しくなり行くべけれは、当時に定め置たる御倹約の格は末永き格とならぬことなり、
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『政談』刑罰の事其内にも尚罪の疑はしき計りに用ゆれは、罪の決定したるは仮令金ありて金を出して詫ひたく思へ共叶はぬ故過料の方次になり、刑法の方重になる仔細にて上の御慈悲になる也、初より金を出さすると云ふこと殊のほかに下輩なる仕かたにて民の心に服し易きこと也、当時公儀にて此法取行はるれとも下心に尤と存せすと見えて諸大名にては之を執行はす、公儀の御作法を諸大名の真似たも宜しからさることなり、此以後諸大名にても公儀を真似て刑法を執行はゝ御国に至りては必ず不埒出来すへし、其仔細は当時諸大名困究甚しけれは必す非道の過料を取るへし、惣して金銀のことにては人の争ひも怨みも出来るものなり、年貢抔は昔より強くも取ることもあれども、先年伯嗜安芸肥後にては年貢のことにて百姓一揆程のことありしと承はる、質地の捌き御役人のかるはづみに申し出てたることの行れて山形にては事出来せり、右の過料は異国にも日本にも古例なきことなれば、遠国の人は必す心服すまじきことなり、当時世界の奢り甚しきより諸々の悪事生する故、上に倹約を御用ひ遊はさるれは、御役人どもは金を御好み成さるゝと了簡したるやらん、宜からさる事を申し立てゝ取行ふことあるなり、
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『政談』制度の事制度の事は右所々に云ひたる如く、上下倹約を守り奢りなきやうにする仕方之に越ゆることなし、公儀に御倹約ありて世界の手本と遊はさるゝ御心にても、制度立てられさるときは下たるもの守るへきやうなく、唯々上には御物好きにても斯の如しと存することになり、いたらぬものは金をたむることか御物好きなりなとゝ取沙汰するまてにて下の為にはならす、上の御身上も制度立たぬときは御代も移りては亦上の御物好きにて皆破るゝことになること故、畢竟詮もなきことゝなるへし、
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『政談』當時困窮を改むる道古三代の制度を考へ定むべき事畢竟精を出して上へ奉公をして、上より賜はる禄は残らず皆御城下の商人のものとなり、馬を持ことも成らす、人を持こともならず、各春のきふ符の間をは質物にてとりつゞき、町人に仕送りと云ふことを頼みて、己れが身上は人の手に渡るやうに当時はなりきはまりたるは哀なる事ならずや、畢竟は箸一本にても代を出して買調へされは叶はさること故斯の如くなりたるなり、之のみならず公儀の御身上も同く旅宿の仕掛なり、其仔細は何もかも皆御買上けにて御用を弁せらるヽによりて旅宿なり、惣して和漢ともに天下を知し召さるゝ上は、御買上と云ふことはなき故なり、大名なとの在所他国なるか御城下に参勤して詰め居るは旅宿なれは尤のことなり、天下を知し召さるゝ上は日本国中は皆御国なり、何もかも皆其のものを直に御用ひなさるゝこと故御買上げと云ふことはなき筈なり、物を買ふと云ふは元来人のものなるをたゝは取られぬことなる故代を出して取ることを云ふなり、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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