政談 / 武家旅宿の境遇を改むる事
武家田舍に居住するときは第一衣食住にもの入らぬ故武家の身上直るへし、總して奢りは內證より起る、武家の妻女御城下に住む時は次第に奢りて身を倦し病者になる故、其腹に生るゝ子柔弱にて今は何の御用に立ぬやうに相成りたり、是れ亦田舍に住みぬれは自から機なとを織りて身をこなし、奢りも薄く身も强くなりて武家の妻女に相應すへし、男も野廣く方々かけありき、手足も丈夫に成るへし、親類近付きの方へ話にありき、用事あれは五里も三里もつねにありき、馬も自から達者になるへし、飼料も心安けれは二三百石の身上にても五匹十匹も好き次第に持るゝは田舍なり、平生隙なれば武藝幷に學問も外の慰みなけれは江戶よりはよかるへし、家來も田地五石の十石の取らせても作取りにさする故五石は十石なり、十石は二十石なり、其の上に田舍の暮しなる故五石めは二十石めに向ひて、二十石めは四十石めに向ひ、何も豐にて然かも數多く持たるゝ故軍役の嗜み如何程もなるへし、
新字:武家田舎に居住するときは第一衣食住にもの入らぬ故武家の身上直るへし、総して奢りは内証より起る、武家の妻女御城下に住む時は次第に奢りて身を倦し病者になる故、其腹に生るゝ子柔弱にて今は何の御用に立ぬやうに相成りたり、是れ亦田舎に住みぬれは自から機なとを織りて身をこなし、奢りも薄く身も強くなりて武家の妻女に相応すへし、男も野広く方々かけありき、手足も丈夫に成るへし、親類近付きの方へ話にありき、用事あれは五里も三里もつねにありき、馬も自から達者になるへし、飼料も心安けれは二三百石の身上にても五匹十匹も好き次第に持るゝは田舎なり、平生隙なれば武芸幷に学問も外の慰みなけれは江戸よりはよかるへし、家来も田地五石の十石の取らせても作取りにさする故五石は十石なり、十石は二十石なり、其の上に田舎の暮しなる故五石めは二十石めに向ひて、二十石めは四十石めに向ひ、何も豊にて然かも数多く持たるゝ故軍役の嗜み如何程もなるへし、
書き下し
武家田舎に居住するときは第一衣食住にもの入らぬ故武家の身上直るへし、総して奢りは内証より起る、武家の妻女御城下に住む時は次第に奢りて身を倦し病者になる故、其腹に生るゝ子柔弱にて今は何の御用に立ぬやうに相成りたり、是れ亦田舎に住みぬれは自から機なとを織りて身をこなし、奢りも薄く身も強くなりて武家の妻女に相応すへし、男も野広く方々かけありき、手足も丈夫に成るへし、親類近付きの方へ話にありき、用事あれは五里も三里もつねにありき、馬も自から達者になるへし、飼料も心安けれは二三百石の身上にても五匹十匹も好き次第に持るゝは田舎なり、平生隙なれば武芸幷に学問も外の慰みなけれは江戸よりはよかるへし、家来も田地五石の十石の取らせても作取りにさする故五石は十石なり、十石は二十石なり、其の上に田舎の暮しなる故五石めは二十石めに向ひて、二十石めは四十石めに向ひ、何も豊にて然かも数多く持たるゝ故軍役の嗜み如何程もなるへし、
現代語訳
武家が田舎に住むときは、第一に衣食住に費用がかからないので、武家の暮らし向きは立ち直るだろう。総じて奢りは内証(家の内)から起こる。武家の妻女が城下に住む時は次第に奢って体を怠けさせ病気がちになるので、その腹に生まれる子は柔弱で、今は何のお役にも立たないようになってしまった。これもまた田舎に住めば、自然と機などを織って体を動かし、奢りも薄く体も強くなって、武家の妻女にふさわしくなるだろう。男も野が広いのであちこち駆け回り、手足も丈夫になるだろう。親類や知人の所へ話しに出歩き、用事があれば五里も三里もいつも歩き、馬も自然と達者になるだろう。飼料も手に入りやすいので、二、三百石の身代でも五頭、十頭も好きなだけ持てるのは田舎である。ふだん暇なので、武芸や学問も、ほかの慰みがないので江戸よりはよいだろう。家来も、田地を五石、十石与えても自作させるので、五石は十石、十石は二十石の値打ちになる。そのうえ田舎の暮らしなので、五石の者は(江戸の)二十石の者に、二十石の者は四十石の者に相当し、何でも豊かで、しかも数多く持てるので、軍役のたしなみはいくらでもできるだろう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『墨子』節葬下何を以て其の然るを知るや。今、天下の士君子、將に猶お多く皆な厚葬久喪の是非利害に中たるを疑惑せんとす。故に子墨子言いて曰く、然らば則ち姑く嘗みに之を稽えん。今、厚葬久喪を執る者の言に法り、以て國家に事を為すこと毋しと雖も。此れ王公大人の喪有る者に存りては、曰く、棺槨は必ず重ね、葬埋は必ず厚くし、衣衾は必ず多く、文繡は必ず繁く、丘隴は必ず巨いにす、と。正夫賤人の死する者に存りては、殆ど家室を竭くす。諸侯の死する者に乎いては、庫府を虚しくし、然る後に金玉珠璣、身に比べ、綸組節約し、車馬、壙に蔵む。又た必ず多く屋幕・鼎鼓・几筵・壺濫・戈劍・羽旄・齒革を為り、寢しめて之を埋む。意を滿たすに送從の若きは、曰く、天子は殉を殺すこと、衆きは數百、寡なきは數十。將軍大夫の殉を殺すこと、衆きは數十、寡なきは數人。
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孫子・作戦篇国の師に貧しきは遠く輸すればなり。遠く輸すれば百姓貧し。
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『韓非子』六反第四十六「政を為すは猶ほ沐のごときなり、弃髪有りと雖も、必ず之を為す。」弃髪の費を愛みて長髪の利を忘るるは、権を知らざる者なり。
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孫子・作戦篇孫子曰く、凡そ兵を用うるの法は、馳車千駟、革車千乗、帯甲十万、千里に糧を饋る。則ち内外の費、賓客の用、膠漆の材、車甲の奉、日に千金を費やし、然る後に十万の師挙がるなり。
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孫子・作戦篇力屈き財殫き、中原内は家に虚し。百姓の費、十に其の七を去り、公家の費、破車罷馬、甲冑矢弩、戟楯蔽櫓、丘牛大車、十に其の六を去る。
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論語・憲問篇子曰く、上礼を好めば、則ち民使い易きなり。
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