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政談 / 譜代者の事

然れは譜代もの絕えて皆出替りものはかりになりたるは武道の衰廢にて、武家の爲には至極の惡しきことなりと知るべし、此の境を篤と了簡せは、向後武家に譜代もの出來るやうに取り捌くへきことなり、其の仕方は前に云ふ如く人別を立てゝ田舍の者は江戶に足をとむることならず、町のものは他國へ移る事ならぬことにして、武家の家來も妻もち幷に其の家にて生れ育ちたるものは永く其の主人の家を離るゝことならぬやうに定め、其主人の人別に付け置き請人を立てさせず譜代のものに定むべし、或は其の者に子供多く其の主人少身にて養ふこと成り難く、脇へ出替り奉公に出たすとも事有るときは其の譜代の主人如何樣とも取捌くへし、

新字:然れは譜代もの絶えて皆出替りものはかりになりたるは武道の衰廃にて、武家の為には至極の悪しきことなりと知るべし、此の境を篤と了簡せは、向後武家に譜代もの出来るやうに取り捌くへきことなり、其の仕方は前に云ふ如く人別を立てゝ田舎の者は江戸に足をとむることならず、町のものは他国へ移る事ならぬことにして、武家の家来も妻もち幷に其の家にて生れ育ちたるものは永く其の主人の家を離るゝことならぬやうに定め、其主人の人別に付け置き請人を立てさせず譜代のものに定むべし、或は其の者に子供多く其の主人少身にて養ふこと成り難く、脇へ出替り奉公に出たすとも事有るときは其の譜代の主人如何様とも取捌くへし、

書き下し

然れは譜代もの絶えて皆出替りものはかりになりたるは武道の衰廃にて、武家の為には至極の悪しきことなりと知るべし、此の境を篤と了簡せは、向後武家に譜代もの出来るやうに取り捌くへきことなり、其の仕方は前に云ふ如く人別を立てゝ田舎の者は江戸に足をとむることならず、町のものは他国へ移る事ならぬことにして、武家の家来も妻もち幷に其の家にて生れ育ちたるものは永く其の主人の家を離るゝことならぬやうに定め、其主人の人別に付け置き請人を立てさせず譜代のものに定むべし、或は其の者に子供多く其の主人少身にて養ふこと成り難く、脇へ出替り奉公に出たすとも事有るときは其の譜代の主人如何様とも取捌くへし、

現代語訳

そうであれば、譜代者が絶えてみな出替り者ばかりになったのは武道の衰えであって、武家のためには極めて悪いことだと知るべきである。この境目をよく考えるならば、今後は武家に譜代者ができるように取り計らうべきである。そのやり方は、前に述べたように人別(戸籍)を立てて、田舎の者は江戸に足を留めることができず、町の者は他国へ移ることができないようにし、武家の家来も、妻を持つ者や、その家で生まれ育った者は、永くその主人の家を離れられないように定め、その主人の人別に付けておき、請人を立てさせずに譜代の者と定めるべきである。あるいはその者に子どもが多く、主人が小身で養いきれず、よそへ出替り奉公に出すとしても、事があるときはその譜代の主人がどのようにでも取り計らうべきである。

解説

譜代を復活させる具体策を示した条である。徂徠は戸籍の整備と移動の制限を前提に、妻帯者や家で生まれ育った者を主人の人別に付けて譜代と定めよと説く。小身の主人が養いきれない場合は外へ奉公に出してもよいが、責任は元の主人が持つという柔軟さもある。移動の自由を制限する発想そのものは現代では受け入れがたいが、長期的な関係を個人の善意に頼らず制度で支えるという考え方は参考になる。人材の定着を望むなら、定着が自然に起こる仕組みを先に設計すべきである。

この章句が説くこと

譜代戸籍定着制度人材雇用

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