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政談 / 譜代者の事

健かなるものは年の若き内は渡りありき、年よれは辻番なとになり、果は乞食に成り、火付け盜賊をもしたるたくひのものなり、其內に少しじみなるものも年久しく江戶に居、百姓のわざに遠のき麥飯かて物飯をいやに思ふより、奉公の先きにて行合夫婦を拵へ、町へ引き込みぼていをふり一生を送る、是によりて少々年久しく居て家になじみあるものゝ出て入りするも皆輕き町人なり、いとゝさへ御城下は町人の中なるに、身になり爲になり其の家になしみありて出て入りする者皆町人なれは、武家の子供皆町人の心根の如くなりゆくもことはりなり、

新字:健かなるものは年の若き内は渡りありき、年よれは辻番なとになり、果は乞食に成り、火付け盗賊をもしたるたくひのものなり、其内に少しじみなるものも年久しく江戸に居、百姓のわざに遠のき麦飯かて物飯をいやに思ふより、奉公の先きにて行合夫婦を拵へ、町へ引き込みぼていをふり一生を送る、是によりて少々年久しく居て家になじみあるものゝ出て入りするも皆軽き町人なり、いとゝさへ御城下は町人の中なるに、身になり為になり其の家になしみありて出て入りする者皆町人なれは、武家の子供皆町人の心根の如くなりゆくもことはりなり、

書き下し

健かなるものは年の若き内は渡りありき、年よれは辻番なとになり、果は乞食に成り、火付け盗賊をもしたるたくひのものなり、其内に少しじみなるものも年久しく江戸に居、百姓のわざに遠のき麦飯かて物飯をいやに思ふより、奉公の先きにて行合夫婦を拵へ、町へ引き込みぼていをふり一生を送る、是によりて少々年久しく居て家になじみあるものゝ出て入りするも皆軽き町人なり、いとゝさへ御城下は町人の中なるに、身になり為になり其の家になしみありて出て入りする者皆町人なれは、武家の子供皆町人の心根の如くなりゆくもことはりなり、

現代語訳

丈夫な者は、年の若いうちは渡り歩き、年をとれば辻番などになり、果ては乞食になり、放火や盗みもしたような類いの者である。その中で少し地味な者も、年久しく江戸にいて、百姓の仕事から遠ざかり、麦飯や糧物飯(雑穀や野菜を混ぜた飯)を嫌に思うようになるので、奉公先で行き合った者と夫婦になり、町へ引っ込んでぼてふりをして一生を送る。これによって、少々年久しくいて家になじみのある者で出入りする者も、みな身分の軽い町人である。ただでさえ城下は町人の中にあるのに、身のためになり、その家になじみがあって出入りする者がみな町人であれば、武家の子どもがみな町人の心根のようになっていくのも道理である。

解説

出替り奉公人がたどる行く末と、それが武家に及ぼす影響を描いた条である。丈夫な者は渡り歩いた末に辻番や乞食になり、地味な者も江戸の暮らしに慣れて百姓に戻れず、町で行商をして一生を終える。そうした町人が武家に親しく出入りするので、武家の子が町人の心根に染まると徂徠は言う。人の流れと周囲の環境が価値観を形づくるという観察である。組織でも、日々接する人々の考え方は知らぬ間に染み込む。誰と多く接するかを意識しなければ、組織の気風は気づかぬうちに変わっていく。

この章句が説くこと

環境気風町人奉公価値観江戸

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