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政談 / 遊女河原者の種姓の分事並に乞食の締りの事

某幼少のときより田舍へ參り、十三年上總の國に住みて身にも樣々の難義をし、又樣々のことを見聞く上田舍者にて無骨なる故、人の得云はぬかやうなることをも主人に云かひて云ひたるなり、十三年を經て御城下に歸りて見れば、御城下の風俗つくんに替りたるを見て書籍の道理をも考へ合せ少しはものゝこゝろも付きたるやうなり、初めより御城下に住み續けたらば自然と移る風俗なる故うはゝとして何の心も付くまじきと存じ、實に御城下に常に住む高官世祿の人は何のこゝろいたりもなく、又風俗につれて物をも得云はぬも是亦餘儀も無きことなりと存じ候なり、

新字:某幼少のときより田舎へ参り、十三年上総の国に住みて身にも様々の難義をし、又様々のことを見聞く上田舎者にて無骨なる故、人の得云はぬかやうなることをも主人に云かひて云ひたるなり、十三年を経て御城下に帰りて見れば、御城下の風俗つくんに替りたるを見て書籍の道理をも考へ合せ少しはものゝこゝろも付きたるやうなり、初めより御城下に住み続けたらば自然と移る風俗なる故うはゝとして何の心も付くまじきと存じ、実に御城下に常に住む高官世禄の人は何のこゝろいたりもなく、又風俗につれて物をも得云はぬも是亦余儀も無きことなりと存じ候なり、

書き下し

某幼少のときより田舎へ参り、十三年上総の国に住みて身にも様々の難義をし、又様々のことを見聞く上田舎者にて無骨なる故、人の得云はぬかやうなることをも主人に云かひて云ひたるなり、十三年を経て御城下に帰りて見れば、御城下の風俗つくんに替りたるを見て書籍の道理をも考へ合せ少しはものゝこゝろも付きたるやうなり、初めより御城下に住み続けたらば自然と移る風俗なる故うはゝとして何の心も付くまじきと存じ、実に御城下に常に住む高官世禄の人は何のこゝろいたりもなく、又風俗につれて物をも得云はぬも是亦余儀も無きことなりと存じ候なり、

現代語訳

私は幼少の頃から田舎へ行き、十三年間上総の国に住んで、身にもさまざまな難儀をし、またさまざまなことを見聞きしたうえ、田舎者で無骨なので、人の言えないようなことも主人に言い返して言ったのである。十三年たって城下に帰ってみると、城下の風俗がすっかり変わったのを見て、書物の道理とも考え合わせ、少しは物事の心がわかるようになったようである。初めから城下に住み続けていたなら、自然と移り変わる風俗なので、うわの空で何の心も付かなかっただろうと思う。実に、城下に常に住む高官で世襲の禄を受ける人々が何の思い至りもなく、また風俗に引きずられて物も言えないのも、これまたやむをえないことだと存じます。

解説

徂徠が自らの経歴を語り、なぜ他の人に見えないものが見えたのかを明かす条である。父の流罪に伴って少年期の十三年を上総の田舎で過ごし、江戸に戻ったとき城下の変化がはっきり見えた。ずっと中にいれば変化は少しずつで気づかないという指摘は、組織論でいう「外の目」の価値そのものである。書物の道理と現場の見聞を突き合わせて初めて物事がわかるという姿勢も、徂徠の実学らしい。長く同じ組織にいる人ほど、外を経験した人や新参の声に耳を傾ける必要がある。

この章句が説くこと

経験外の目現場風俗学問荻生徂徠

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