言志四録 / 言志録 第五十八条 実際の学問
登山嶽。涉川海。走數十百里。有時乎露宿不寐。有時乎饑不食。寒不衣。此是多少實際學問。若夫徒爾明窻淨几。焚香讀書者。恐少得力處。
新字:登山嶽。渉川海。走数十百里。有時乎露宿不寐。有時乎饑不食。寒不衣。此是多少実際学問。若夫徒爾明窓浄几。焚香読書者。恐少得力処。
書き下し
山嶽に登り、川海を渉り、数十百里を走り、時有りてか露宿して寐ねず、時有りてか饑ゑて食はず、寒くして衣ず。此れは是れ多少の実際の学問なり。夫の徒爾に明窓浄几、香を焚きて書を読む者の若きは、恐らくは力を得る処少なからん。
現代語訳
山に登り、川や海を渡り、数十里から百里も歩き、ある時は野宿して眠らず、ある時は飢えても食べず、寒くても着るものがない。これこそどれほどの実地の学問であることか。あの、ただ明るい窓辺のきれいな机で香をたいて書物を読んでいるだけの者は、おそらく本当に力となるところが少ないだろう。
解説
前条の「何事か学に非ざらん」を、さらに強く言った一条です。山を登り、川を渡り、野宿し、飢えや寒さに耐える。そうした体を張った経験こそが、たくさんの「実際の学問」になると一斎は言います。対比されるのは、明るい窓と清らかな机、香を焚いて静かに本を読む、いわば理想的な書斎の学問です。一斎はそれを否定はしませんが、それ「だけ」では、いざというときに力にならないと見ています。昌平坂学問所の儒官として書物に囲まれて生きた人の言葉だけに、自戒も込められているように読めます。机の上での知識と、現場で身をもって得た知恵の違いを、自分の仕事ではどう組み合わせているかを考えさせられます。
この章句が説くこと
実学経験学問鍛錬現場
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