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政談 / 遊女河原者の種姓の分事並に乞食の締りの事

特に武家の浪人と云ふものは工商のわさをも知らす、親類近付の力にて世を送るものなるか、近年武家の風義惡しくなり、人に樂もしき心消え失せ、唯々利勘の心强くなる、是亦二卷目に云ふ如く皆上たる人の心より起ることにて、見つく人なきゆゑ渡世に困り世間の惡風俗に引れて僞りかたりなと種々の惡しきことをすることに今は成り、其の上に長わづらひもするか不仕合せ續けは右のたくひになるなり、尤も士の商賣をせぬと云ふは元來利倍の家業をせぬことなり、年よりたる親なとを持ちたるものは渡世につまりてはぼていをふり、日用をとるたくひは浪人のするとても、元來士のみさほに少しも汚れなきことなれとも、風俗に連れて世間の人に眼なきゆゑ左樣のこともならす、外を飾ることを第一とするより種々の僞りかたりをすることには成たるなり、

新字:特に武家の浪人と云ふものは工商のわさをも知らす、親類近付の力にて世を送るものなるか、近年武家の風義悪しくなり、人に楽もしき心消え失せ、唯々利勘の心強くなる、是亦二巻目に云ふ如く皆上たる人の心より起ることにて、見つく人なきゆゑ渡世に困り世間の悪風俗に引れて偽りかたりなと種々の悪しきことをすることに今は成り、其の上に長わづらひもするか不仕合せ続けは右のたくひになるなり、尤も士の商売をせぬと云ふは元来利倍の家業をせぬことなり、年よりたる親なとを持ちたるものは渡世につまりてはぼていをふり、日用をとるたくひは浪人のするとても、元来士のみさほに少しも汚れなきことなれとも、風俗に連れて世間の人に眼なきゆゑ左様のこともならす、外を飾ることを第一とするより種々の偽りかたりをすることには成たるなり、

書き下し

特に武家の浪人と云ふものは工商のわさをも知らす、親類近付の力にて世を送るものなるか、近年武家の風義悪しくなり、人に楽もしき心消え失せ、唯々利勘の心強くなる、是亦二巻目に云ふ如く皆上たる人の心より起ることにて、見つく人なきゆゑ渡世に困り世間の悪風俗に引れて偽りかたりなと種々の悪しきことをすることに今は成り、其の上に長わづらひもするか不仕合せ続けは右のたくひになるなり、尤も士の商売をせぬと云ふは元来利倍の家業をせぬことなり、年よりたる親なとを持ちたるものは渡世につまりてはぼていをふり、日用をとるたくひは浪人のするとても、元来士のみさほに少しも汚れなきことなれとも、風俗に連れて世間の人に眼なきゆゑ左様のこともならす、外を飾ることを第一とするより種々の偽りかたりをすることには成たるなり、

現代語訳

とりわけ武家の浪人というものは、職人や商人の技も知らず、親類や知人の力で世を送るものだが、近年は武家の気風が悪くなり、人に頼もしい心(面倒を見る心)が消え失せ、ただ損得勘定の心ばかり強くなった。これもまた第二巻で述べたように、みな上に立つ人の心から起こることで、面倒を見る人がいないために暮らしに困り、世間の悪い風俗に引かれて、偽りや騙りなどさまざまな悪いことをするようになり、そのうえ長患いでもするか不運が続けば、先に述べた類いになるのである。もっとも、士が商売をしないというのは、本来は利殖の家業をしないということである。年老いた親などを抱えた者が、暮らしに詰まってぼてふりをしたり日雇いをしたりするのは、浪人がしたとしても、本来は士の操に少しも汚れのないことである。けれども風俗に引きずられて世間の人に見る眼がないために、そういうこともできず、外見を飾ることを第一とするところから、さまざまな偽りや騙りをするようになったのである。

解説

浪人が詐欺に走る理由を、本人の悪心ではなく世間の価値観に求めた条である。徂徠は、士が商売しないとは利殖をしないという意味で、親を養うための行商や日雇いは士の操を汚さないと明言する。ところが世間に見る眼がなく体面ばかり重んじるため、正直な働き方ができず偽りに走るという。体面の重視が人を不正に追い込む構造の指摘は鋭い。職場でも、失敗や窮状を正直に言えない空気があると、隠蔽や粉飾が生まれる。正直な選択を恥としない評価軸をつくることが組織の役目である。

この章句が説くこと

体面浪人正直評価風俗武士

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