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政談 / 戶籍の事

當時の奉行は下より申出たることばかりをさばきて、申出てぬことは搆はす、法ばかりを立てゝ法の行支る所を理を極めて法に合はするやうにし、治めと云ふことを一圓に心付かぬ故惡人の絕ゆることなし、民のいたづらもの法を能く呑み込み居て、法の蔭にかくれて惡事をする上、右に云ひたる如く面々こうなる風俗なれは、名主も五人組も畢竟詮なきものになりたり、其の上當時の奉行は世の風儀にて特の外威高く搆へ、下を近けす、たゝ法を以てあいしろふ故、上下情通せす下を治むへきやうなし、上より御預けの町村をは我か家の如く身に引掛け世話にし、一町一村の內のものは和睦し、兎角民の風俗のよくなるへき筋を至意とし、名主にもよき筋を申しふくめ、下のけすます疑はぬやうに治むるを眞の治めと云ふなり、

新字:当時の奉行は下より申出たることばかりをさばきて、申出てぬことは搆はす、法ばかりを立てゝ法の行支る所を理を極めて法に合はするやうにし、治めと云ふことを一円に心付かぬ故悪人の絶ゆることなし、民のいたづらもの法を能く呑み込み居て、法の蔭にかくれて悪事をする上、右に云ひたる如く面々こうなる風俗なれは、名主も五人組も畢竟詮なきものになりたり、其の上当時の奉行は世の風儀にて特の外威高く搆へ、下を近けす、たゝ法を以てあいしろふ故、上下情通せす下を治むへきやうなし、上より御預けの町村をは我か家の如く身に引掛け世話にし、一町一村の内のものは和睦し、兎角民の風俗のよくなるへき筋を至意とし、名主にもよき筋を申しふくめ、下のけすます疑はぬやうに治むるを真の治めと云ふなり、

書き下し

当時の奉行は下より申出たることばかりをさばきて、申出てぬことは搆はす、法ばかりを立てゝ法の行支る所を理を極めて法に合はするやうにし、治めと云ふことを一円に心付かぬ故悪人の絶ゆることなし、民のいたづらもの法を能く呑み込み居て、法の蔭にかくれて悪事をする上、右に云ひたる如く面々こうなる風俗なれは、名主も五人組も畢竟詮なきものになりたり、其の上当時の奉行は世の風儀にて特の外威高く搆へ、下を近けす、たゝ法を以てあいしろふ故、上下情通せす下を治むへきやうなし、上より御預けの町村をは我か家の如く身に引掛け世話にし、一町一村の内のものは和睦し、兎角民の風俗のよくなるへき筋を至意とし、名主にもよき筋を申しふくめ、下のけすます疑はぬやうに治むるを真の治めと云ふなり、

現代語訳

今の奉行は、下から申し出たことばかりを裁いて、申し出ないことは構わず、法ばかりを立てて、法の行き詰まる所は理屈を極めて法に合わせるようにし、治めということにまったく気づかないので、悪人が絶えることがない。民のならず者は法をよく飲み込んでいて、法の陰に隠れて悪事をするうえに、右に言ったように各自勝手な風俗なので、名主も五人組も結局は甲斐のないものになった。そのうえ今の奉行は世の風儀で殊のほか威張って構え、下を近づけず、ただ法によってあしらうので、上下の情が通じず、下を治めようがない。お上から預けられた町村を、わが家のように身に引き受けて世話をし、一町一村の内の者は和睦し、とにかく民の風俗がよくなるような筋を第一の心がけとし、名主にもよい筋を言い含め、下の者がわだかまらず疑わないように治めるのを、真の治めというのである。

解説

訴えを待って裁くだけの奉行を、徂徠は「治め」を知らない者と批判する。法ばかりを立て、行き詰まれば理屈で法に合わせ、ならず者は法の陰に隠れる。しかも威張って下を近づけず、上下の情が通じない。真の治めとは、預かった町村をわが家のように引き受けて世話し、民がわだかまりなく信頼できるようにすることだという。規則の運用と統治を区別したこの指摘は、管理職の本質を言い当てている。報告を待って裁くだけの上司は、管理はしていても部下を治めてはいないのである。

この章句が説くこと

治め奉行管理職上下法信頼

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