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政談 / 江戶町中並に武家屋敷の締りの事

總して武家屋敷も元來一組を一町に置たることなり、大御番十二組にて番町一番町より六番町まで各々表裏これあり、古は飯田町の上に土手これあるなり、御番衆に與力同心も元來一組一町にあつまり居たることなり、されども役ぬけ御番入り小ぶしん入りより混亂し、特に權威ある人屋敷をえり取りにする故此の法亂れ、今は同組所々に分れ居るやうになりたるなり、これによりて別御役別組の人となりと成り、武家の人から内證の事知るべきやうなし、一町の內のことは家内の微細なることまで何事も知れざることは惡しき事なり、微細に知るれども他役他組の人なれば、一屋敷の面々こうにて、武家ことのほかに我まゝになり、諸事とりしまりなく、埓もなくなりたること、これによりてなり、ことにかろき同心のたくひの一組のうちをひきわけて牛込本鄕離れ〳〵にさし置くこと、そのもの平生何をするかも同組も知らぬことにて吟味すべきやうなし、願ふ所は古法の通り御番衆も與力同心も一くみを一所に置き、その頭をも一所に置き、役入り番入り等のとき入り替るやうにするときは、組下の人抦も何も委細に知るゝことにて、盜賊奉行などの下の惡事を知ぬやうなることは決してなきことなり、

新字:総して武家屋敷も元来一組を一町に置たることなり、大御番十二組にて番町一番町より六番町まで各々表裏これあり、古は飯田町の上に土手これあるなり、御番衆に与力同心も元来一組一町にあつまり居たることなり、されども役ぬけ御番入り小ぶしん入りより混乱し、特に権威ある人屋敷をえり取りにする故此の法乱れ、今は同組所々に分れ居るやうになりたるなり、これによりて別御役別組の人となりと成り、武家の人から内証の事知るべきやうなし、一町の内のことは家内の微細なることまで何事も知れざることは悪しき事なり、微細に知るれども他役他組の人なれば、一屋敷の面々こうにて、武家ことのほかに我まゝになり、諸事とりしまりなく、埓もなくなりたること、これによりてなり、ことにかろき同心のたくひの一組のうちをひきわけて牛込本郷離れ〳〵にさし置くこと、そのもの平生何をするかも同組も知らぬことにて吟味すべきやうなし、願ふ所は古法の通り御番衆も与力同心も一くみを一所に置き、その頭をも一所に置き、役入り番入り等のとき入り替るやうにするときは、組下の人抦も何も委細に知るゝことにて、盗賊奉行などの下の悪事を知ぬやうなることは決してなきことなり、

書き下し

総して武家屋敷も元来一組を一町に置たることなり、大御番十二組にて番町一番町より六番町まで各々表裏これあり、古は飯田町の上に土手これあるなり、御番衆に与力同心も元来一組一町にあつまり居たることなり、されども役ぬけ御番入り小ぶしん入りより混乱し、特に権威ある人屋敷をえり取りにする故此の法乱れ、今は同組所々に分れ居るやうになりたるなり、これによりて別御役別組の人となりと成り、武家の人から内証の事知るべきやうなし、一町の内のことは家内の微細なることまで何事も知れざることは悪しき事なり、微細に知るれども他役他組の人なれば、一屋敷の面々こうにて、武家ことのほかに我まゝになり、諸事とりしまりなく、埓もなくなりたること、これによりてなり、ことにかろき同心のたくひの一組のうちをひきわけて牛込本郷離れ〳〵にさし置くこと、そのもの平生何をするかも同組も知らぬことにて吟味すべきやうなし、願ふ所は古法の通り御番衆も与力同心も一くみを一所に置き、その頭をも一所に置き、役入り番入り等のとき入り替るやうにするときは、組下の人抦も何も委細に知るゝことにて、盗賊奉行などの下の悪事を知ぬやうなることは決してなきことなり、

現代語訳

総じて武家屋敷も、もとは一組を一町に置いたものである。大御番は十二組で、番町は一番町から六番町まで、それぞれ表と裏がある。昔は飯田町の上に土手があった。御番衆の与力・同心も、もとは一組が一町に集まっていたのである。けれども役抜け・番入り・小普請入りから混乱し、とくに権威のある人が屋敷を選び取りにするので、この法が乱れ、今は同じ組の者があちこちに分かれて住むようになった。これによって隣は別の役、別の組の人となり、武家の人柄や内々の事情を知るすべがない。一町の内のことは家の中の細かなことまで何事も知れないのは悪いことである。細かに知れても他役・他組の人なので、一屋敷ごとに各自勝手にしていて、武家がことのほか我がままになり、諸事取り締まりがなく、らちもなくなったのは、これによるのである。とくに軽い同心の類の一組の中を引き分けて、牛込・本郷と離れ離れに住まわせることは、その者が平生何をしているかを同じ組の者も知らないことになり、吟味のしようがない。願うところは古法のとおり、御番衆も与力・同心も一組を一所に置き、その頭も一所に置き、役入り・番入りなどのときに入れ替わるようにすれば、組下の人柄も何もかも詳しく知れることになり、盗賊奉行などが下の悪事を知らないようなことは決してないだろう。

解説

組織の単位と居住の単位を一致させよ、という提案である。もとは一組一町だった武家の配置が、異動や権威者の屋敷選びで崩れ、隣人は別組となり、組頭も部下の平生を知り得なくなった。徂徠は、互いの事情が見えないことが我がままと無秩序を生んだと見る。頭も組も一所に置けば、部下の人柄も悪事も自然に見えてくる。物理的な配置が統治の質を決めるという洞察は、在宅と出社、チームの席配置を考える現代の組織にも通じる。管理とは監視の強化でなく、自然に見える状態を作ることなのだ。

この章句が説くこと

組織配置組頭人柄古法チーム

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