留魂録 / 第十三条
一、右数條余徒ニ書スルニ非ス、天下ノ事ヲ成スハ天下有志ノ士ト志ト通スルニ非レハ得ス、而シテ右数人、余此回新ニ得ル所ノ人ナルヲ以テ是ヲ同志ニ告示スナリ、又勝野保三郞早已ニ出牢ス、就テ其詳ヲ問知スベシ、勝野ノ父豐作今潜伏スト雖トモ有志ノ士ト聞ケリ、他日事平ヲ待テ物色スベシ、今日ノ事、同志ノ諸士戰敗ノ餘、傷殘ノ同士ヲ問訊スル如クスベシ、一敗乃挫折スル豈勇士ノ事ナランヤ、切ニ囑ス〳〵、
新字:一、右数条余徒ニ書スルニ非ス、天下ノ事ヲ成スハ天下有志ノ士ト志ト通スルニ非レハ得ス、而シテ右数人、余此回新ニ得ル所ノ人ナルヲ以テ是ヲ同志ニ告示スナリ、又勝野保三郎早已ニ出牢ス、就テ其詳ヲ問知スベシ、勝野ノ父豊作今潜伏スト雖トモ有志ノ士ト聞ケリ、他日事平ヲ待テ物色スベシ、今日ノ事、同志ノ諸士戦敗ノ余、傷残ノ同士ヲ問訊スル如クスベシ、一敗乃挫折スル豈勇士ノ事ナランヤ、切ニ囑ス〳〵、
書き下し
一、右数条、余徒らに書するに非ず。天下の事を成すは、天下有志の士と志を通ずるに非ざれば得ず。而して右数人、余此の回新たに得る所の人なるを以て、是れを同志に告示するなり。又勝野保三郎早已に出牢す、就きて其の詳を問知すべし。勝野の父豊作今潜伏すと雖も、有志の士と聞けり。他日事平らぐを待ちて物色すべし。今日の事、同志の諸士、戦敗の余、傷残の同士を問訊する如くすべし。一敗乃ち挫折する、豈に勇士の事ならんや。切に嘱す、切に嘱す。
現代語訳
以上の数条は、私がいたずらに書いたのではない。天下の事を成し遂げるには、天下の志ある人々と志を通じ合わせなければできない。そして右の数人は、私が今回新たに得た人々であるから、これを同志に知らせるのである。また勝野保三郎はもう出牢しているので、訪ねて詳しいことを聞くとよい。勝野の父の豊作は今は潜伏しているが、志ある人と聞いている。いずれ事が収まるのを待って探し出すとよい。今日のことは、同志の諸君が、戦に敗れた後で傷ついて生き残った仲間を見舞うようにしてほしい。一度敗れただけで挫けるのが、どうして勇士のすることであろうか。切に頼む、切に頼む。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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孫子・九地篇吾が士に余財無きは、貨を悪むに非ざるなり。余命無きは、寿を悪むに非ざるなり。令の発するの日、士卒の坐する者は涕襟を沾し、偃臥する者は涙頤に交わる。之を往く所無きに投ずれば、則ち諸・劌の勇なり。
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『春秋左氏伝』哀公二年 鉄の戦い下卿の罰なり」と。甲戌、將に戰はんとす。郵無恤、簡子に御たり、衛の太子右たり。鐵上に登り、鄭の師の眾きを望見す。大子懼れ、自ら車下に投ず。子良、大子に綏を授けて之に乘らしめて曰く、「婦人なり」と。簡子列を巡りて曰く、「畢萬は匹夫なり。七たび戰ひて皆獲、馬百乘を有ちて、牖下に死せり。群子之を勉めよ。死は寇に在らず」と。繁羽、趙羅に御たり、宋勇右たり。羅勇無く、之を麇(つな)ぐ。吏之を詰る。御對へて曰く、「痁作りて伏せり」と。衛の大子禱りて曰く、「曾孫蒯聵、敢へて昭らかに皇祖文王・烈祖康叔・文祖襄公に告ぐ。鄭勝は亂に從ひ、晉午は難に在りて、亂を治むる能はず、鞅をして之を討たしむ。蒯聵敢へて自ら佚せず、矛を持するに備はる。敢へて告ぐ、筋を絕つこと無く、骨を折ること無く、面を傷つくること無く、以て大事を集(な)さしめよ。三祖の羞と作ること無からん。大命は敢へて請はず。佩玉は敢へて愛まず」と。鄭人、簡子を擊ちて肩に中つ。車中に斃る。其の蜂旗を獲たり。大子之を救ふに戈を以てす。鄭の師北(に)ぐ。溫の大夫趙羅を獲たり。大子復た之を伐つ。
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説苑・立節士君子の勇有りて行に果なる者、以て節を立て誼を行わずして、妄死非名を以てするは、豈に痛ましからずや。士殺身以て仁を成し、害に触れて以て義を立て、節理に倚りて死地を議せざる有り。故に能く身死して名来世に流る、勇断有るに非ずんば、孰か能く之を行わんや。
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論語・述而篇子、顔淵に謂いて曰く、「之を用うれば則ち行い、之を舎つれば則ち蔵る。惟だ我と爾と是れ有るかな。」子路曰く、「子、三軍を行らば、則ち誰と与にせん。」子曰く、「暴虎馮河、死して悔い無き者は、吾与にせざるなり。必ずや事に臨みて懼れ、謀を好みて成す者なり。」
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『講孟余話』公孫丑上 第二章「孟施舎の勇を養ふ所や」。此の章浩然の気を論ず、其の論甚だ盛大雄偉なり。北宮黝・孟施舎の勇の如きは固より言ふに足らず。但し孟施舎の勇は、武士戦場に向ふ時は角こそ有り度きことなり、因りて其の略を言はん。無懼の二字是れ主なり。勇気敵を呑むと云ふ如く、百万の大敵目に余ると雖も、屑ともせぬことなり。死を知れば必ず勇と云へば、打死と覚悟さへ定まりたれば、大敵猛勢も畏るるに足ることなし。然れども此の勇を養ひて大になさざれば、仮令覚悟定まりたれども、勇気敵を呑む所なし、未だ孟施舎の勇を語るに足らず。孟施舎の如き者一人陣中にあれば、惣軍の気是れが為に大いに増盛し、敗軍も転じて勝軍となる者なり。此の人一人国中にあれば、闔国の気是れが為に増盛し、弱国も転じて強国となる者なり。況や此の人を挙げて将帥の任となすに於てをや。強将の下弱兵なきこと必せり。士安ぞ茲に志さざるべけんや。
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『徂徠先生答問書』卷上一被仰下候勇気の不足の儀、武門には尤なる御僉議に候。聖人の道も、知仁勇を三達徳と申候て、君子は勇なくて不叶事に候。大抵はしらぬ事をあやぶみ、なれぬ事には気遣申事、人情の常にて御座候。たとへば船頭の風波を恐れ候はぬは勇に似候へ共、馬にのせ候へば恐れ候。世に武篇者と被申候人も、礼法の場に至り候へば。殊の外に臆候事有之候は、皆しらずなれぬ事故に候。又幼児の、昼の間は遊び戯れ候坪の内を、夜中になれば恐れ候は、物の分ち目に見え不申故に候。然ども道理を知れば危ぶみ不申物と存じ、道理をしらんと計致し候へば、知れば知るほど疑生じ気遣多く成申物に候。只何となくなれ候事第一に候。初の程は先こらへ候て其事になれ候へば、後には気遣も危ぶみも次第にうせ行候事は、習れ候へば、其事にわたりてよく存候故に御座候。さればなれ不申儀に臆し申候とて、元来の勇気の不足にては無御座候。
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