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留魂録 / 第九条

一、東口揚屋ニ居ル水戶ノ郷士堀江克之助、余未タ一面ナシト雖トモ眞ニ知己ナリ、眞ニ益友ナリ、余ニ謂テ曰、昔シ矢部駿州ハ桑名矦ヘ御預ケノ日ヨリ絕食シテ敵讎ヲ詛テ死シ、果シテ敵讎ヲ退ケタリ、今足下モ自ラ一死ヲ期スルカラハ祈念ヲ籠テ内外ノ敵ヲ拂ハレヨ、一心ヲ殘置テ給ハレヨト、丁寧ニ告戒セリ、吾誠ニ此言ニ感服ス、

新字:一、東口揚屋ニ居ル水戸ノ郷士堀江克之助、余未タ一面ナシト雖トモ真ニ知己ナリ、真ニ益友ナリ、余ニ謂テ曰、昔シ矢部駿州ハ桑名矦ヘ御預ケノ日ヨリ絶食シテ敵讎ヲ詛テ死シ、果シテ敵讎ヲ退ケタリ、今足下モ自ラ一死ヲ期スルカラハ祈念ヲ籠テ内外ノ敵ヲ払ハレヨ、一心ヲ残置テ給ハレヨト、丁寧ニ告戒セリ、吾誠ニ此言ニ感服ス、

書き下し

一、東口揚屋に居る水戸の郷士堀江克之助、余未だ一面なしと雖も、真に知己なり、真に益友なり。余に謂ひて曰く、「昔し矢部駿州は桑名侯へ御預けの日より絶食して敵讎を詛ひて死し、果して敵讎を退けたり。今足下も自ら一死を期するからは、祈念を籠めて内外の敵を払はれよ、一心を残し置いて給はれよ」と、丁寧に告戒せり。吾誠に此の言に感服す。

現代語訳

東口の揚屋にいる水戸の郷士、堀江克之助は、私とは一度も顔を合わせたことがないが、まことの知己であり、まことに益になる友である。彼は私にこう言った。「昔、矢部駿河守は桑名侯へお預けとなった日から食を絶ち、仇敵を呪って死に、果たして仇敵を退けた。今あなたも自ら死を覚悟するからには、念を込めて国の内外の敵を払ってほしい。一心をこの世に残しておいてほしい」と、ねんごろに教え戒めてくれた。私はまことにこの言葉に感服した。

解説

ここから松陰は、獄中で出会った人々を一人ずつ同志に紹介し始めます。最初の堀江克之助とは顔を合わせたこともないのに、獄舎越しの言葉だけで真の知己と呼びます。矢部駿河守定謙は、天保の改革のころ鳥居耀蔵らに陥れられて南町奉行を罷免され、預け先の桑名で絶食して死んだ人です。「一心を残し置いて給はれよ」という堀江の言葉は、書名の「留魂」と響き合います。死にゆく者に、心だけは残せと励ます友の言葉を、松陰がどれほど深く受け止めたかが伝わります。

この章句が説くこと

知己益友同志獄中一心

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