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留魂録 / 第七条

此心吾此身ヲ惜シム爲メニ発スルニ非ズ、抑故アリ、去臘大晦、朝議已ニ幕府ニ貸ス、今春三月五日、吾公ノ駕已ニ萩府ヲ発ス、吾策是ニ於テ尽果タレハ死ヲ求ムルコト極テ急ナリ、六月ノ末江戶ニ來ルニ及ンテ、夷人ノ情態ヲ見聞シ、七月九日獄ニ來リ天下ノ形勢ヲ考察シ、神国ノ事猶ナスヘキモノアルヲ悟リ、初テ生ヲ幸トスルノ念勃々タリ、吾若シ死セスンハ勃々タルモノ決シテ汨沒セサルナリ、然トモ十六日ノ書、三奉行ノ權詐吾ヲ死地ニ措ントスルヲ知リテヨリ更ニ生ヲ幸ノ心ナシ、是亦平生学問ノ得力然ルナリ、

新字:此心吾此身ヲ惜シム為メニ発スルニ非ズ、抑故アリ、去臘大晦、朝議已ニ幕府ニ貸ス、今春三月五日、吾公ノ駕已ニ萩府ヲ発ス、吾策是ニ於テ尽果タレハ死ヲ求ムルコト極テ急ナリ、六月ノ末江戸ニ来ルニ及ンテ、夷人ノ情態ヲ見聞シ、七月九日獄ニ来リ天下ノ形勢ヲ考察シ、神国ノ事猶ナスヘキモノアルヲ悟リ、初テ生ヲ幸トスルノ念勃々タリ、吾若シ死セスンハ勃々タルモノ決シテ汨没セサルナリ、然トモ十六日ノ書、三奉行ノ権詐吾ヲ死地ニ措ントスルヲ知リテヨリ更ニ生ヲ幸ノ心ナシ、是亦平生学問ノ得力然ルナリ、

書き下し

此の心、吾が此の身を惜しむ為めに発するに非ず。抑々故あり。去臘大晦、朝議已に幕府に貸す。今春三月五日、吾が公の駕已に萩府を発す。吾が策是に於て尽き果てたれば、死を求むること極めて急なり。六月の末江戸に来るに及んで、夷人の情態を見聞し、七月九日獄に来り、天下の形勢を考察し、神国の事猶なすべきものあるを悟り、初めて生を幸とするの念勃々たり。吾若し死せずんば、勃々たるもの決して汨没せざるなり。然れども十六日の書、三奉行の権詐、吾を死地に措かんとするを知りてより、更に生を幸ふの心なし。是れ亦平生学問の得力然るなり。

現代語訳

この喜ぶ心は、自分の身を惜しむために起きたのではない。そもそもわけがある。去年の大晦日、朝廷の議論はすでに幕府に条約の調印を許してしまった。今年の三月五日には、わが藩主の駕籠もすでに萩を発って江戸へ向かった。私の策はこれで尽き果てたので、死を求める心が極めて急であった。ところが六月の末に江戸へ来て、外国人の様子を見聞きし、七月九日に獄に入って天下の形勢を考えてみると、わが国のためになお為すべきことがあると悟り、初めて生きていることを幸いと思う心が勃々と湧いてきた。私がもし死ななければ、この湧き上がるものは決して消えはしない。けれども十六日の供述書で、三奉行のごまかしが私を死に追いやろうとしていると知ってからは、もう生を願う心はない。これもまた、日ごろの学問の力がそうさせるのである。

解説

生きたいと思ったのは命が惜しいからではなく、まだ国のために為すべきことが見えたからだ、と松陰は説明します。策が尽きて死を急いでいた心が、江戸で外国の実情を見て再び燃え上がる。その熱さが「勃々」の二字に込められています。しかし死罪が避けられないと知ると、執着はすっと消えました。生への望みも死の受容も、その時々の状況を正面から見て判断した結果であり、その切り替えを支えたのが平生の学問だと言います。学問が知識ではなく、生き方を定める力として語られている一節です。

この章句が説くこと

学問平生生への意志執着切り替え

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