留魂録 / 第五条
一、七月九日、一通リ大原公ノ事、鯖江要駕ノ事等申立タリ、初意ラク、是等ノ事幕ニモ已ニ諜知スケレハ、明白ニ申立タル方却テ宜シキナリト、已ニシテ逐一口ヲ開キシニ、幕ニテ一圓知ラサルニ似タリ、因テ意ラク、幕ニテ知ラヌ所ヲ強テ申立テ多人数ニ株連蔓延セハ、善類ヲ傷フコト少ナカラズ、毛ヲ吹テ瘡ヲ求ムルニ斉シト、是ニ於テ鯖江要擊ノ事モ要諫トハ云替タリ、又京師徃來諸友ノ姓名、連判諸士ノ姓名等可成丈ハ隱シテ具白セズ、是吾後起人ノ為メニスル區々ノ婆心ナリ、而シテ幕裁果シテ吾一人ヲ罸シテ、一人モ他ニ連及ナキハ実ニ大慶ト云フヘシ、同友ノ諸友深ク考思セヨ、
新字:一、七月九日、一通リ大原公ノ事、鯖江要駕ノ事等申立タリ、初意ラク、是等ノ事幕ニモ已ニ諜知スケレハ、明白ニ申立タル方却テ宜シキナリト、已ニシテ逐一口ヲ開キシニ、幕ニテ一円知ラサルニ似タリ、因テ意ラク、幕ニテ知ラヌ所ヲ強テ申立テ多人数ニ株連蔓延セハ、善類ヲ傷フコト少ナカラズ、毛ヲ吹テ瘡ヲ求ムルニ斉シト、是ニ於テ鯖江要撃ノ事モ要諫トハ云替タリ、又京師往来諸友ノ姓名、連判諸士ノ姓名等可成丈ハ隠シテ具白セズ、是吾後起人ノ為メニスル区々ノ婆心ナリ、而シテ幕裁果シテ吾一人ヲ罰シテ、一人モ他ニ連及ナキハ実ニ大慶ト云フヘシ、同友ノ諸友深ク考思セヨ、
書き下し
一、七月九日、一通り大原公の事、鯖江要駕の事等申し立てたり。初め意らく、是等の事幕にも已に諜知すべければ、明白に申し立てたる方却つて宜しきなりと。已にして逐一口を開きしに、幕にて一円知らざるに似たり。因りて意らく、幕にて知らぬ所を強ひて申し立て、多人数に株連蔓延せば、善類を傷ふこと少なからず、毛を吹いて瘡を求むるに斉しと。是に於て鯖江要撃の事も要諫とは云ひ替へたり。又京師往来諸友の姓名、連判諸士の姓名等、成るべき丈は隠して具白せず。是れ吾が後起の人の為めにする区々の婆心なり。而して幕裁果して吾一人を罰して、一人も他に連及なきは実に大慶と云ふべし。同友の諸友深く考思せよ。
現代語訳
七月九日、大原卿のことや鯖江侯の駕籠を迎え撃つ計画のことなどをひととおり申し立てた。初めは、これらのことは幕府もすでに探り知っているだろうから、はっきり申し立てたほうがかえってよいと考えた。ところが一つ一つ口を開いてみると、幕府はまったく知らないようであった。そこで、幕府の知らないことを無理に申し立てて、多くの人に罪が広がれば、善良な人々を傷つけることが少なくない、それは毛を吹き分けてわざわざ傷を探すようなものだと考えた。それで鯖江侯の要撃のことも「要諫」(待ち受けて諫める)と言い換えた。また京都を行き来した友人たちの名や、血判に加わった人々の名などは、できるかぎり隠して詳しくは述べなかった。これは後に続く人々のための、私のささやかな老婆心である。そして幕府の裁きは、はたして私一人を罰して、一人も巻き添えにしなかった。まことに大きな喜びというべきである。同志の諸君はよく考えてほしい。
解説
この章句が説くこと
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