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留魂録 / 第三条

一、吾性激烈怒罵ニ短シ、務テ時勢ニ從ヒ、人情ニ適スルヲ主トス、是ヲ以テ吏ニ對シテ幕府違勅ノ已ムヲ得サルヲ陳シ、然ル後當今的當ノ處置ニ及フ、其說常ニ講究スル所ニシテ對策ニ載スルカ如シ、是ヲ以テ幕吏ト雖甚怒罵スルコト不能、直ニ曰ク、汝陳白スル所悉ク的當トモ思ハレズ、且卑賤ノ身ニシテ国家ノ大事ヲ議スルコト不屆ナリ、余亦深ク抗セズ、是ヲ以テ罪ヲ獲ルハ萬々辞セサル所ナリト云テ已ミヌ、幕府ノ三尺布衣国ヲ憂ルコトヲ許サズ、其是非敢テ弁爭セサルナリ、

新字:一、吾性激烈怒罵ニ短シ、務テ時勢ニ従ヒ、人情ニ適スルヲ主トス、是ヲ以テ吏ニ対シテ幕府違勅ノ已ムヲ得サルヲ陳シ、然ル後当今的当ノ処置ニ及フ、其説常ニ講究スル所ニシテ対策ニ載スルカ如シ、是ヲ以テ幕吏ト雖甚怒罵スルコト不能、直ニ曰ク、汝陳白スル所悉ク的当トモ思ハレズ、且卑賤ノ身ニシテ国家ノ大事ヲ議スルコト不届ナリ、余亦深ク抗セズ、是ヲ以テ罪ヲ獲ルハ万々辞セサル所ナリト云テ已ミヌ、幕府ノ三尺布衣国ヲ憂ルコトヲ許サズ、其是非敢テ弁争セサルナリ、

書き下し

一、吾が性激烈怒罵に短し。務めて時勢に従ひ、人情に適するを主とす。是れを以て吏に対して幕府違勅の已むを得ざるを陳じ、然る後当今的当の処置に及ぶ。其の説常に講究する所にして対策に載するが如し。是れを以て幕吏と雖も甚だ怒罵すること能はず、直ちに曰く、「汝陳白する所悉く的当とも思はれず、且つ卑賤の身にして国家の大事を議すること不届きなり」と。余亦深く抗せず、「是れを以て罪を獲るは万々辞せざる所なり」と云ひて已みぬ。幕府の三尺、布衣国を憂ふることを許さず。其の是非敢へて弁争せざるなり。

現代語訳

私の性分は、激しく怒り罵ることが苦手である。努めて時勢に従い、人情にかなうことを主としている。だから役人に対しても、幕府が勅許を待たずに条約を結んだのはやむを得なかったことをまず述べ、そのうえで今なすべき適切な処置に話を進めた。その説は日ごろから研究してきたもので、上書した対策に書いたとおりである。それで幕府の役人もひどく怒鳴ることはできず、ただ「お前の申すことがすべて的を射ているとも思えない。それに卑しい身分で国家の大事を論じるのは不届きである」と言った。私もそれ以上は強く逆らわず、「そのために罪を受けるのなら決して辞退しない」と言って話を終えた。幕府の法は、無位無官の者が国を憂えることを許さない。その是非について、私はあえて争わなかった。

解説

激情家と見られがちな松陰が、自分は怒鳴り合いが苦手で、相手の立場をまず認めてから自説を述べると語る条です。取り調べでも、幕府の違勅調印をいったん「やむを得なかった」と受け止めてから今後の策を説き、役人も声を荒げることができませんでした。それでも返ってきたのは「身分の低い者が国事を論じるのは不届き」という答えでした。三尺は法律のこと、布衣は官位のない者のことです。松陰は法の是非を争わず、罪を受けることだけを引き受けます。主張の通し方と引き際の両方が見える一節です。

この章句が説くこと

説得人情時勢身分引き際

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