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論語と算盤 / 実業と士道・摸倣時代に別れよ

最後に当局者に一言して置きたい事は、奨励は大に之を努めねばならぬが、不自然不相応の奨励を行へば終に無理が出来る、親切なやり方も却つて不親切な結果となり、保護した積りが干渉束縛となる、殊に商品の試験及び紹介をする際には、私利私情を離れて一に邦家の為を念ひ、公平と親切とを忘れざらん事を切望して置く、更に又日本品使用の機運が動いたのを奇貨として、詰らぬ物を粗製濫造し、忠良なる国民を欺瞞し、一時の私腹を肥さんと試むる商売人もあらう、此の如きも亦国産の発達を阻害すること尠少でないから、相警めて斯る不逞漢の輩出を防がねばならぬのである。

書き下し

最後に当局者に一言して置きたい事は、奨励は大いにこれを努めねばならぬが、不自然不相応の奨励を行えばついに無理ができる。親切なやり方もかえって不親切な結果となり、保護したつもりが干渉束縛となる。ことに商品の試験および紹介をする際には、私利私情を離れて一に邦家のためを念い、公平と親切とを忘れざらん事を切望して置く。さらにまた日本品使用の機運が動いたのを奇貨として、つまらぬ物を粗製濫造し、忠良なる国民を欺瞞し、一時の私腹を肥やさんと試むる商売人もあろう。このごときもまた国産の発達を阻害すること尠少でないから、相警めてかかる不逞漢の輩出を防がねばならぬのである。

現代語訳

最後に当局者に一言しておきたいのは、奨励は大いに努めなければならないが、不自然で身の丈に合わない奨励を行えば、ついには無理が生じるということである。親切なやり方もかえって不親切な結果となり、保護したつもりが干渉や束縛になる。とくに商品の試験や紹介をする際には、私利私情を離れてひたすら国のためを思い、公平と親切を忘れないよう切に望んでおく。さらにまた、日本品を使おうという機運が動いたのを好機として、つまらない物を粗製濫造し、忠実で善良な国民をだまして、一時の私腹を肥やそうとする商売人もいるだろう。こういうこともまた国産品の発達を少なからず妨げるから、互いに戒め合って、そのような不届き者が次々に出てくるのを防がねばならないのである。

解説

章の結びで渋沢は、当局と商人の双方に釘を刺す。当局には、不自然な奨励は無理を生み、保護のつもりが干渉と束縛になると言う。大蔵省で制度作りに携わり、その後は民間の側から官の介入の弊害を見てきた人の実感である。官尊民卑の打破は渋沢の生涯の主題の一つだった。商品の試験や紹介では私情を離れ、公平と親切を忘れるな、とも言う。商人には、国産愛用の機運に乗じて粗悪品を作り売る者が出ると警告する。愛国を看板にした粗製濫造は、国民を欺くだけでなく、国産品全体の信用を傷つけ、運動そのものを潰す。渋沢が最も恐れたのはそこだった。大義を掲げた運動ほど、その大義に便乗する者を内側から防がなければならない。善意の制度が逆効果になる筋道を、ここまで具体的に見通しているのは見事である。

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