論語と算盤 / 実業と士道・文明人の貪戻
吾人は須らく進んで支那の富源を開発し、其の産業を進め、其の販路を拡めて、通商上の利益を増加するやうに心掛けねば為らぬ、我が国民の今日まで支那に対する商工業経営の態度を見るに、兎角個々別々であつて、其の間に少しも聯絡がない、独逸の政治経済機関が統一して密接な関係を保つて居るのを見るにつけても、我が国民が此の歴史的に於ても、将た人種的に於ても、幾多の便宜を有する国柄なるに関はらず、彼等の後へに瞠若たるやうではならぬ、而して此の覚悟は特に我が青年に対して最も望ましき所である、何うか今日の青年諸氏は斯る所に注目して力を入れて貰ひたいのである。
書き下し
吾人はすべからく進んで支那の富源を開発し、その産業を進め、その販路を拡めて、通商上の利益を増加するように心掛けねばならぬ。我が国民の今日まで支那に対する商工業経営の態度を見るに、とかく個々別々であって、その間に少しも聯絡がない。ドイツの政治経済機関が統一して密接な関係を保っているのを見るにつけても、我が国民がこの歴史的においても、はたまた人種的においても、幾多の便宜を有する国柄なるにかかわらず、彼らの後えに瞠若たるようではならぬ。そしてこの覚悟は特に我が青年に対して最も望ましき所である。どうか今日の青年諸氏はかかる所に注目して力を入れてもらいたいのである。
現代語訳
我々はぜひとも進んで中国の資源を開発し、その産業を進め、その販路を広げて、通商上の利益を増やすよう心がけなければならない。我が国民がこれまで中国に対して商工業を営んできた態度を見ると、とかく個々ばらばらで、互いの間に少しも連絡がない。ドイツの政治と経済の機関が一つにまとまって密接な関係を保っているのを見るにつけても、我が国民が、歴史的にも人種的にも数多くの有利な条件を持つ国柄であるにもかかわらず、彼らの後ろで目を見張って立ち尽くしているようではならない。そしてこの覚悟は、とりわけ我が国の青年に最も望みたいところである。どうか今日の青年諸君は、こういうところに目をつけて力を入れてもらいたいのである。
解説
関連する章句
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『論語と算盤』実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべしこれについてまず試みるべきは開拓事業であって、すなわち支那の富源を拓き天与の宝庫を展開して、その国富を増進せしむるにある。そしてこれが経営の方法は、両国民の共同出資による合弁事業となすが最良法である。ひとり開拓事業にとどまらず、その他の事業においてもまたその組織は日支合弁事業とするのである。かくするにおいては日支間に緊密なる経済的連鎖を生じ、したがって両国間に真個の提携をなし得るのである。余の関係せる中日実業会社は、この意味において発起設立せられたるものにて、その成功を期せんとする所以もまたここに存するのである。
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『論語と算盤』実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべし商業の真個の目的が有無相通じ、自他相利するにあるごとく、殖利生産の事業も道徳と随伴して、初めて真正の目的を達するものなりとは、余の平素の持論にして、我が国が支那の事業に関係するに際しても、忠恕の念をもってこれに臨み、自国の利益を図るはもちろんながら、併せて支那をも利益する方法に出ずるにおいては、日支間に真個提携の実を挙ぐることは、決して難い事ではない。
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『論語と算盤』実業と士道・文明人の貪戻翻って我が国の商工業を見るに、多くは不統一にして振るわず、ことに戦乱の影響を受け、生糸の値は下落し、綿糸綿布の販路は渋滞し、総じて取引は萎靡し、有価証券の価は下落し、新たなる事業は起こらざるの状態にある。しかし早晩これらは恢復することも予想に難くないのであるから、この際一時の困難は堪え難くとも、当業者は大いに勇気を起こさねばならぬ所である。また一方にはこの事変は大いに乗ぜざるべからざる好時機と思う。今日我が実業家は目前の不景気に畏縮するようであるけれども、それははなはだ無気力の行為である。ただその着目を誤らぬようにして戦中十分なる研究を積み、漸次実物の効果のあるように努めて行きたいのである。ことに支那に対する商工業のごときは、境は接近している。人情風俗ともに欧米人に比すれば縁故最も深いのである。しかるにその関係においては、往々にして他列強に比して大いに遜色あるは実に心細い極みである。
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『論語と算盤』実業と士道・文明人の貪戻総じて学術技芸には能う限りの保護と便利とを与え、商工業は常に政治兵備と相聯絡し、中央銀行のごときも力を尽して商工業の便宜、資金の融通を計るというように、いかに彼ら上下一致して富国に従事しているかが窺知し得られる。またその学問においても化学、発明、技術、精妙、実に行き届くことは一通りではない。それは今回の戦乱のために、遠き我が国のごときをして、薬品染料等の欠乏に窮せしめたる事実に見るも、彼の国の力が世界の隅々まで及んでいることが分かる。ゆえに自国の拡大のみを企図する貪戻心は実に厭うべきであるが、官民一致その国の富強を勉むるの努力は感服の外はないのである。
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『論語と算盤』実業と士道・文明人の貪戻いずれの国家においても、自国の商工業を発達せしめんとするには、海外に我が国産の販路を求め、人口の増殖するにおいては領土を拡むることを講ずるのみならず、様々なる策略をもって自己の勢力の増大を図るのである。現に欧州列強が五大州に雄飛している所以は、全くこれらの事情によるものであって、優越なる地位を占むるものは、特に優越なる国家と称せらるるのである。かのドイツ皇帝今回の行動のごとき、この点より企図せられたものであると思われる。従来皇帝が内地の殖産に、海外の殖民に留意せらるることは容易ならざるものにて、もしも少しくその点について注意するならば、何人といえども、皇帝がなにゆえにかくまで仔細に心を労せられるかということを感ぜずにはいられまい。例えば、英仏に対する商工業の競争はもちろん、日露戦後、日本雑貨が各地に歓迎さるるを見れば、直ちにこれを模造する。
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『論語と算盤』実業と士道・相愛忠恕の道を以て交はるべし日支間は同文同種の関係あり。国の隣接せる位置よりするも、はたまた古来よりの歴史よりいうも、また思想、風俗、趣味の共通せる点あるに徴するも、相提携せざるべからざる国柄なり。然らばいかにして提携の実を挙ぐべきか。その方策他なし。人情を理解し、己の欲せざる所はこれを人に施さず、いわゆる相愛忠恕の道をもって相交わるにあり。すなわちその方策は論語の一章にありと謂うべきである。
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