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論語と算盤 / 実業と士道・武士道は即ち実業道なり

凡そ人としてその処世の本旨を忘れ、非道を行うても私利私慾を充たさうとすることがあつたり、或は権勢に媚び諂うても其身の栄達を計らんと欲するは、これ実に人間行為の標準を無視したもので、斯くの如きは決して其の身、其の地位を永遠に維持する所以の道では無いのである、

書き下し

およそ人としてその処世の本旨を忘れ、非道を行うても私利私欲を充たそうとすることがあったり、あるいは権勢に媚び諂うてもその身の栄達を計らんと欲するは、これ実に人間行為の標準を無視したもので、かくのごときは決してその身、その地位を永遠に維持する所以の道ではないのである。

現代語訳

およそ人として、世を渡る本来の目的を忘れ、道にはずれたことをしてでも私利私欲を満たそうとしたり、あるいは権勢に媚びへつらってでも自分の栄達を図ろうとしたりするのは、まことに人間の行いの基準を無視したものであって、このようなことは決して、その身やその地位を末永く保つための道ではないのである。

解説

渋沢は武士道を実業道とせよという主張の根拠を、ここで人間行為の標準という普遍的な言葉で示す。非道を行ってでも私利私欲を満たそうとすること、権勢に媚びへつらってでも栄達を図ること。どちらも人としての標準を無視したもので、その身と地位を長く保つ道ではない、と言う。ここで渋沢が訴えているのは、倫理だけではなく持続性である。不正な手段で得た利益や地位は、一時は手にできても長くは続かない。これは論語述而篇の「不義にして富み且つ貴きは、我に於て浮雲の如し」とも響き合う。浮雲のように、たちまち流れ去るのである。政商と呼ばれる者たちが権力に近づいて富を築いた時代に、渋沢は官を辞して民間に立ち、権勢に頼らない実業を唱えた。長く続く事業と地位は、人としての標準を守ることの上にしか築けない。

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