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論語と算盤 / 実業と士道・武士道は即ち実業道なり

苟くも世に処し身を立てようと志すならば、其の職業の何たるを問はず、身分の如何を顧みず、終始自力を本位として須臾も道に背かざることに意を専らにし、然る後に自ら富み且つ栄ゆるの計を怠らざるこそ、真の人間の意義あり価値ある生活といふ事が出来よう、今や武士道は移して以て実業道とするがよい、日本人は飽くまで大和魂の権化たる武士道を以て立たねばならぬ、商業にまれ工業にまれ、此の心を以て心とせば、戦争に於て日本が常に世界の優位を占めつ〻あるが如く、商工業に於ても亦世界に勇を競ふに至らる〻のである。

書き下し

いやしくも世に処し身を立てようと志すならば、その職業の何たるを問わず、身分の如何を顧みず、終始自力を本位として須臾も道に背かざることに意を専らにし、然る後に自ら富みかつ栄ゆるの計を怠らざるこそ、真の人間の意義あり価値ある生活ということが出来よう。今や武士道は移してもって実業道とするがよい。日本人はあくまで大和魂の権化たる武士道をもって立たねばならぬ。商業にまれ工業にまれ、この心をもって心とせば、戦争において日本が常に世界の優位を占めつつあるごとく、商工業においてもまた世界に勇を競うに至られるのである。

現代語訳

かりにも世に立って身を立てようと志すなら、職業が何であれ、身分がどうであれ、終始自分の力を本位とし、片時も道に背かないことに心を専らにする。そのうえで富み栄える計を怠らない——それでこそ、本当に意義があり価値のある人間の生活と言えるだろう。いまや武士道は移して実業道とするのがよい。日本人はあくまで大和魂の権化である武士道をもって立たねばならない。商業であれ工業であれ、この心を心とするなら、戦争において日本が世界の優位を占めつつあるように、商工業においても世界と勇を競えるようになるのである。

解説

武士道を商人のものにする——この本で最も知られた主張の一つである。渋沢はまず、武士道が士人だけのものとされ、商工業者には正義や廉直を旨としていては商売が立ち行かないという通念があったことを指摘する。それは儒者が仁と富を並び立たないとしたのと同じ誤りだ、と。そして論語の「其の道を以てせずして之を得れば処らざるなり」を、武士が道によらなければ一毫も取らなかった意気と同じものだと読む。当時の具体的な不満も述べられている。欧米の商工業者は損があっても一度した約束は履行するのに、日本の商人は一時の利に走るため信用されない、と。武士道を実業道へ移せというのは、精神論である前に信用の話だった。

この章句が説くこと

武士道は即ち実業道正義廉直義俠敢為礼譲約束の履行道によらざれば処らず

この一句を、あなたの毎日に。

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