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論語と算盤 / 算盤と権利・唯王道あるのみ

試みに余の希望を述ぶれば、法の制定は固より可いが、法が制定されて居るからと云つて、一も二もなく其れに裁断を仰ぐといふことは、成るべくせぬやうに仕たい、

書き下し

試みに余の希望を述ぶれば、法の制定はもとよりよいが、法が制定されているからと言って、一も二もなくそれに裁断を仰ぐということは、なるべくせぬようにしたい。

現代語訳

試しに私の希望を述べるなら、法律を制定することはもちろんよいが、法律が制定されているからといって、何でもかんでもそれに裁きを仰ぐということは、なるべくしないようにしたい。

解説

短い一文だが、渋沢の労働観の要がここにある。法の制定は可、しかし何でも法の裁断に頼ることは避けたい、というのである。法は最後の拠りどころであって、日常の関係を動かす第一の手段ではない、という考え方である。論語為政篇には「之を道くに政を以てし、之を斉ふるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を道くに徳を以てし、之を斉ふるに礼を以てすれば、恥有りて且つ格る」とある。法と罰で治めれば人は抜け道を探すだけで恥を知らず、徳と礼で導けば人は自ら正しくなる、という意味である。渋沢の主張はこの孔子の考えを労使関係に当てはめたものと読める。契約書やルールを整えることは大切だが、それに頼り切った関係は、書かれていないことが起きたときにもろい。信頼があってこそ、ルールは最小限で済む。

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