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論語と算盤 / 人格と修養・楽翁公の幼時

是に依りて見ると、此御方は天才を有つて居られて、而して或点には余程感情の強い性質を有つて居られたが、これと同時に大層精神修養に力を尽され、而して遂に楽翁公の楽翁公たる人格を築き上げられたものと見えるのである。

書き下し

これによりて見ると、この御方は天才を持っておられて、そしてある点にはよほど感情の強い性質を持っておられたが、これと同時に大層精神修養に力を尽くされ、そしてついに楽翁公の楽翁公たる人格を築き上げられたものと見えるのである。

現代語訳

これによって見ると、このお方は天賦の才を持っておられ、そしてある点ではよほど感情の強い性質を持っておられたが、それと同時にたいへん精神修養に力を尽くされ、そうしてついに、楽翁公を楽翁公たらしめる人格を築き上げられたものと見えるのである。

解説

章の結びとして、渋沢は定信の人格の成り立ちを一文でまとめる。天才があった。感情の強さもあった。そのうえで精神修養に力を尽くし、ついに「楽翁公の楽翁公たる人格」を築いた、と。ここでは三つの要素が並べられているが、渋沢の力点は最後の修養にある。才は生まれつきのもので、激しい気性も生まれつきのものだが、人格は築き上げるものだという見方である。この章全体で渋沢は、自伝の中から、褒め言葉を諂いと見抜いたこと、確かでない書を作らなかったこと、添削の手を明記したこと、癇癪を侍臣の直言で改めたことを拾い出してきた。どれも生来の才ではなく、自分を省みる習慣の積み重ねである。「人格と修養」の部の冒頭にこの章が置かれたのは、人格は修養によって作られるという部全体の主題を、一人の人物の成長で示すためと読める。

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