論語と算盤 / 理想と迷信・日新なるを要す
政治界に於ける今日の遅滞は、繁縟に流れるからのことである、官吏が形式的に、事柄の真相に立ち入らずして、例へば、自分にあてがはれた仕事を機械的に処分するを以て満足して居る、イヤ官吏ばかりでない、民間の会社や銀行にも、此の風が吹き荒んで来つ〻あるやうに思ふ、一体形式的に流れるのは、新興国の元気欝勃たる所には少いもので、長い間、風習がつ〻゙いた古国に多いものである、幕府の倒れたのは其の理由からであつた、『滅六国者六国也、非秦也』と曰つてある、幕府を滅したるは幕府の外なかつた、大風が吹いても強い木は倒れぬ。
書き下し
政治界における今日の遅滞は、繁縟に流れるからのことである。官吏が形式的に、事柄の真相に立ち入らずして、例えば、自分にあてがわれた仕事を機械的に処分するをもって満足している。いや官吏ばかりでない、民間の会社や銀行にも、この風が吹き荒んで来つつあるように思う。一体形式的に流れるのは、新興国の元気鬱勃たる所には少ないもので、長い間、風習が続いた古国に多いものである。幕府の倒れたのはその理由からであった。「六国を滅ぼす者は六国なり、秦にあらざるなり」と言ってある。幕府を滅ぼしたるは幕府のほかなかった。大風が吹いても強い木は倒れぬ。
現代語訳
政界における今日の停滞は、繁文縟礼に流れるからである。官吏が形式的で、事柄の真相に立ち入らず、たとえば自分に割り当てられた仕事を機械的に処理することで満足している。いや、官吏ばかりではない。民間の会社や銀行にも、この風が吹き荒れてきつつあるように思う。そもそも形式に流れるのは、新興国の元気が盛んにわき立っている所には少ないもので、長い間風習が続いてきた古い国に多いものである。幕府が倒れたのもその理由からであった。「六国を滅ぼしたのは六国自身であって、秦ではない」と言われている。幕府を滅ぼしたのは幕府自身にほかならなかった。大風が吹いても、強い木は倒れない。
解説
関連する章句
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『論語と算盤』理想と迷信・日新なるを要す社会は日に月に進歩するには相違ないが、世間のことは久しくすると、その間に弊を生じ、長は短となり、利は害となるを免れぬ。特に因襲が久しければ、溌溂の気がなくなる。ゆえに古人も言うた、湯の盤の銘に「いやしくも日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり」とある。何でもないことだが、日々に新たにしてまた日に新たなりは面白い。すべて形式に流れると精神が乏しくなる。何でも日に新たの心懸けが肝要である。
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『論語と算盤』理想と迷信・日新なるを要す社会の事柄は年を逐うて進んで来るようにも見える。また学問も内からと外からと、次第次第に新しいものをもたらして来る。
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『論語と算盤』理想と迷信・廓清の急務なる所以かくしてますます富を殖す方にのみ相挙って進む。そこで富む人はいよいよ富む。貧しい者も富を狙おうとする。仁義道徳は旧世紀の遺物として顧みない。むしろほとんどその何物たるかを知らぬ。ただ智識だけをもって自家の富を増すに汲々乎たる有様である。腐敗に傾き、溷濁に陥り、堕落混乱を来す。もとより怪しむに足らない。勢い廓清を叫ばなければならぬ事にもなるのである。
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『論語と算盤』成敗と運命・細心にして大胆なれ近頃青年の間に新しい活気が勃興し、大いにその本領を発揮せんとする傾向を生じたのは、すなわち慶賀すべきことなるが、壮年社会に不活溌の傾向が依然として瀰蔓するようでは、憂うべき事と言わねばならぬ。独立不羈の精神を発揮するには、今日のごとく政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に恋々たる状の見えるごとき風を一掃し、鋭意民力を伸張して、政府を煩わさないで事業を発展せしむる覚悟が必要である。また細事に拘泥し部局の事にのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々としてその規定に触れまいとし、あるいはその規定内の事に満足し、齷齪しているようでは、とても新進の事業を経営し、溌溂たる生気を生じ、世界の大勢に駕することは覚束ない。
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『論語と算盤』実業と士道・此の如き誤解あり生産利殖は仁義道徳に関係のない人の携わるものとされていたから、あたかもすべて商業は罪悪なりと言われた昔時と同様の状態であった。これがほとんど三百年間の風をなした。それも初めは極く簡単な方法でよかったが、次第に智識は減じ気力は衰え、形式のみ繁多になり、ついに武士の精神は廃り、商人は卑屈になって、虚偽横行の世の中となったのである。
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『論語と算盤』理想と迷信・廓清の急務なる所以しからばいかにしてその廓清を計るべきであろう。一般に正当なる利益を進める方法を忘れ、いたずらに利欲の餓鬼となる結果、かくのごとき道徳を滅却するような状態に陥るということは、前に言った。しかしその行動を憎むの余り、生産利殖の根本をも塞ぐというまでに立ち至るのは、甚だ取らない。例えば男女の品行の甚だ猥褻に流れるのを嫌うて、自然の人情まで絶つということは、甚だ不条理なことでもあるし、また行われ難いことでもある。ついには生々の理を失ってしまうことになるのである。実業界の腐敗堕落に対しても、ただこれに対して攻撃戒飭を加えるという方にのみ力を尽すのが、適当なる廓清であるか否かはよほど注意すべき問題であって、あるいはかえってために国家の元気を喪い、国家の真実の富を毀損するような事にならぬとも言われぬ。廓清ということはなかなか難しい。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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