秘本玉くしげ / 下 法の名ばかり
たとひ少少法にははづるることありとも、とかく情實をよく勘へて輕むる方は難なかるべし。さて又異國にては、怒りにまかせてはみだりに死刑に行ひ、貴人といへども會釋もなく嚴刑におこなふならひなるに、本朝にては重き人はそれだけに刑をもゆるく當らるるは、これ又ありがたき御事也。何事にても先規よりの法を守るといふは、天下一同の事にてまことによろしきこと也。然れども近來は、これを守るといふはただ名ばかりにて、實は大にくづれて、其法の本意にも背ける事のみ多し。又法は法と立おきて、其法をよけてさはらぬやうに惡事をなす者甚多きを、ただ法だに立ば、いかほど惡事をなす者有てもとがめざる事あり。たとへば關所をこゆればかなはざる者も、ぬけ道をして通ればとがむる事なく、其關をさへ越ざれば見のがすやうのことあり。万の事に此類おほし。
新字:たとひ少少法にははづるることありとも、とかく情実をよく勘へて軽むる方は難なかるべし。さて又異国にては、怒りにまかせてはみだりに死刑に行ひ、貴人といへども会釈もなく厳刑におこなふならひなるに、本朝にては重き人はそれだけに刑をもゆるく当らるるは、これ又ありがたき御事也。何事にても先規よりの法を守るといふは、天下一同の事にてまことによろしきこと也。然れども近来は、これを守るといふはただ名ばかりにて、実は大にくづれて、其法の本意にも背ける事のみ多し。又法は法と立おきて、其法をよけてさはらぬやうに悪事をなす者甚多きを、ただ法だに立ば、いかほど悪事をなす者有てもとがめざる事あり。たとへば関所をこゆればかなはざる者も、ぬけ道をして通ればとがむる事なく、其関をさへ越ざれば見のがすやうのことあり。万の事に此類おほし。
書き下し
たとひ少々法にははづるることありとも、とかく情実をよく勘へて軽むる方は難なかるべし。さて又異国にては、怒りにまかせてはみだりに死刑に行ひ、貴人といへども会釈もなく厳刑におこなふならひなるに、本朝にては重き人はそれだけに刑をもゆるく当らるるは、これ又ありがたき御事也。何事にても先規よりの法を守るといふは、天下一同の事にてまことによろしきこと也。然れども近来は、これを守るといふはただ名ばかりにて、実は大にくづれて、其法の本意にも背ける事のみ多し。又法は法と立おきて、其法をよけてさはらぬやうに悪事をなす者甚多きを、ただ法だに立ば、いかほど悪事をなす者有てもとがめざる事あり。たとへば関所をこゆればかなはざる者も、ぬけ道をして通ればとがむる事なく、其関をさへ越ざれば見のがすやうのことあり。万の事に此類おほし。
現代語訳
(刑罰を定めるにあたっては)たとえ少々法に外れることがあっても、とにかく情実をよく考えて軽くする方は差し支えないであろう。さてまた異国では、怒りにまかせてみだりに死刑に処し、貴人であっても容赦なく厳刑に処する習わしであるのに、本朝では身分の重い人はそれだけ刑も緩やかに当てられるのは、これまたありがたいことである。何事でも先規からの法を守るというのは、天下一同の事でまことによろしいことである。けれども近頃は、これを守るというのはただ名ばかりで、実は大いに崩れて、その法の本意にも背く事ばかりが多い。また法は法として立てておいて、その法をよけて触れないようにして悪事をなす者がはなはだ多いのに、ただ法さえ立っていれば、どれほど悪事をなす者がいても咎めない事がある。たとえば関所を越えてはならない者も、抜け道を通れば咎めることなく、その関所さえ越えなければ見逃すようなことがある。万事にこの類が多い。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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呂氏春秋・處方⑤今、人此に有り、擅に行いを矯めば則ち國家を免れしめ、輕重を利すれば則ち衡石の如く、方圜を為せば則ち規矩の若くす。此れ則ち工なり巧なり。而れども法るに足らず。法なる者は、衆の同じくする所なり。賢不肖の其の力を以うる所なり。謀の用う可からざるに出で、事同じくす可からざるに出づるは、此れ先王の舍つる所なり。
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『韓非子』五蠹第四十九微妙の言は、上智の知り難しとする所なり。今衆人の爲に法して、上智の知り難しとする所を以てすれば、則ち民從りて之を識る無し。
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