論語と算盤 / 理想と迷信・日新なるを要す
社会は日に月に進歩するには相違ないが、世間のことは久しくすると、その間に弊を生じ、長は短となり、利は害となるを免れぬ、特に因襲が久しければ、潑溂の気がなくなる、故に古人も曰つた、支那の湯の盤の銘に『苟日新、日日新、又日新』とある、何でもないことだが、日々に新にして又日に新なりは面白い、総て形式に流れると精神が乏しくなる、何でも日に新の心懸が肝要である。
書き下し
社会は日に月に進歩するには相違ないが、世間のことは久しくすると、その間に弊を生じ、長は短となり、利は害となるを免れぬ。特に因襲が久しければ、溌溂の気がなくなる。ゆえに古人も言うた、湯の盤の銘に「いやしくも日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり」とある。何でもないことだが、日々に新たにしてまた日に新たなりは面白い。すべて形式に流れると精神が乏しくなる。何でも日に新たの心懸けが肝要である。
現代語訳
社会は日ごと月ごとに進歩するに違いないが、世の中のことは長く続くと、その間に弊が生まれ、長所は短所となり、利は害となることを免れない。とくに因襲が長く続けば、溌溂とした気が失われる。だから古人も言った。殷の湯王が盥に刻んだ銘に「まことに日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり」とある。何ということもない言葉だが、日々新たにしてまた日に新たなり、というのは面白い。すべて形式に流れると精神が乏しくなる。何事も、日に新たにという心がけが肝要である。
解説
長所が短所に変わるのは、環境が変わるからではなく、同じことを長く続けるからだ——渋沢の見方はそこにある。だから処方は「日に新たなり」になる。章では官庁の繁縟が槍玉に挙がる。役人が事柄の真相に立ち入らず、あてがわれた仕事を機械的に処分して満足している、と。そしてすぐに付け加える。これは官吏ばかりではない、民間の会社や銀行にもこの風が吹き荒んでいる、と。形式化は新興の組織には少なく、長く続いた古い組織に多い。だから「六国を滅ぼす者は六国なり、秦に非ざるなり」を引き、幕府を滅ぼしたのは幕府自身だったと言う。大風が吹いても強い木は倒れない、というのがこの章の結論である。
この章句が説くこと
日に日に新たなり形式に流れる因襲六国を滅ぼす者は六国なり