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驢鞍橋 / 卷下

その下炬を聞けば、不生不滅不去不來無我無人無住所本來空虛空同体抔と云ふ、是れどてのことと思ふて云はるゝや。不相應の下炬也。なせ然らは供を好みたる人の下炬を、如何にも善住所に大名と生れ富貴萬福萬歳樂と造らざるや。扨て扨てすぢなきこと哉是程の理さへ知らさる土坊主計にて、世界は無明の闇となること口惜しき次第也。是非とも此の道理、御公義へ申上度思へども未た天道に許されず、御坊主達一絡索必す覺え置るべしと也。

新字:その下炬を聞けば、不生不滅不去不来無我無人無住所本来空虚空同体抔と云ふ、是れどてのことと思ふて云はるゝや。不相応の下炬也。なせ然らは供を好みたる人の下炬を、如何にも善住所に大名と生れ富貴万福万歳楽と造らざるや。扨て扨てすぢなきこと哉是程の理さへ知らさる土坊主計にて、世界は無明の闇となること口惜しき次第也。是非とも此の道理、御公義へ申上度思へども未た天道に許されず、御坊主達一絡索必す覚え置るべしと也。

書き下し

その下炬を聞けば、不生不滅不去不来無我無人無住所本来空虚空同体抔と云ふ、是れどてのことと思ふて云はるゝや。不相応の下炬也。なせ然らは供を好みたる人の下炬を、如何にも善住所に大名と生れ富貴万福万歳楽と造らざるや。扨て扨てすぢなきこと哉是程の理さへ知らさる土坊主計にて、世界は無明の闇となること口惜しき次第也。是非とも此の道理、御公義へ申上度思へども未た天道に許されず、御坊主達一絡索必す覚え置るべしと也。

現代語訳

その下炬(引導の法語)を聞けば、不生不滅、不去不来、無我無人、無住所、本来空、虚空同体などと言う。これはどういうことだと思って言っておられるのか。不相応な下炬である。なぜ、それならば、殉死を好んだ人の下炬を、いかにも良い住処に大名と生まれ、富貴万福万歳楽、と作らないのか。さてさて筋の通らないことだな。これほどの理さえ知らない土坊主ばかりで、世界は無明の闇となることが口惜しい次第である。ぜひともこの道理を御公儀へ申し上げたいと思うけれども、まだ天道に許されない。御坊主たちよ、この一件は必ず覚えておきなさい、と。

解説

殉死者の葬儀で、僧が不生不滅、本来空などと悟りの言葉を並べるのを、正三は不相応だと批判する。主君への執着から命を絶った人に、生死を超えた悟りの言葉を贈るのは筋が通らない、それならいっそ大名に生まれ変わって富み栄えよ、と言うほうがまだ正直だ、と皮肉る。相手の実情を見ず、決まり文句を当てはめる形式主義への痛烈な批判である。幕府に訴えたいという、正三の強い社会的関心もうかがえる。

この章句が説くこと

形式主義下炬殉死決まり文句皮肉社会的関心

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