論語と算盤 / 理想と迷信・日新なるを要す
社会の事柄は年を逐うて進んで来るやうにも見える、また学問も内からと外からと、次第々々に新しいものを齎して来る、
書き下し
社会の事柄は年を逐うて進んで来るようにも見える。また学問も内からと外からと、次第次第に新しいものをもたらして来る。
現代語訳
社会の事柄は、年を追って進んできているようにも見える。また学問も、国の内からも外からも、しだいに新しいものをもたらしてくる。
解説
「日新なるを要す」の章の冒頭である。社会は年を追って進み、学問も国の内と外から次々に新しいものをもたらす、と渋沢はまず進歩を認める。明治維新から半世紀、日本は西洋の制度や技術を取り入れ、鉄道・銀行・会社・大学がそろった。渋沢自身がその変化の担い手だった。しかしこの章の主題は、進歩の礼賛ではない。章の後半で語られるとおり、世の中のことは長く続けるうちに弊が生じ、長所が短所に、利が害に変わる。だから殷の湯王が盤に刻んだ「苟に日に新たに、日日に新たに、又日に新たなり」(『大学』)の心がけが要る、というのが章の結論である。この冒頭の一文は、その前提として、外から新しいものが入ってくることと、内から自らを新しくすることとは別だ、という問題を静かに置いている。新しい知識や制度を取り入れていても、組織の精神が形式に流れていれば、それは日新ではない。変化の激しい時代ほど、取り入れる力と自らを改める力の両方が問われる。
関連する章句
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『論語と算盤』理想と迷信・日新なるを要す社会は日に月に進歩するには相違ないが、世間のことは久しくすると、その間に弊を生じ、長は短となり、利は害となるを免れぬ。特に因襲が久しければ、溌溂の気がなくなる。ゆえに古人も言うた、湯の盤の銘に「いやしくも日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり」とある。何でもないことだが、日々に新たにしてまた日に新たなりは面白い。すべて形式に流れると精神が乏しくなる。何でも日に新たの心懸けが肝要である。
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『論語と算盤』立志と学問・大正維新の覚悟維新ということは、湯の盤の銘に曰う「まことに日に新たなり、日に日に新たにして、また日に新たなり」という意味であるから、潑溂たる気力を発揮するときは、自然に生まれたる新気力を生じ、進鋭の活動が出来るのである。大正維新というも畢竟この意味で、大いに覚悟を定めて、上下一致の活動を現したいものであるが、一般が保守退嬰の風に傾いている際であるから、一層の奮励努力を要するので、これを明治維新の人物の活動に比較して大いに猛省せねばならぬ。明治維新以来の事業中には、失敗に帰したものもあったが、多数の事業は非常なる元気と精力とをもって、駸々として発展し来ったので、他に種々な原因があったにしろ、元気と精力の偉大なるものである。
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『論語と算盤』理想と迷信・発展の一大要素明治の時代は新しい事物を入れて旧い事物を改造し、汲々として進歩を図った時代であった。もちろん進歩が十分なりしとは言われぬが、長い間国を鎖して欧米の文物に接触しなかったものが、わずかに四五十年の間に、漸次かの長を採り我が短を補うて、ある点はかれに恥じぬまで進歩した。もちろんこれは聖代のおかげ、明治天皇の聖明による所、在朝有司の誘導もまた謝意を表さねばならぬが、また国民の精励のしからしむる所と言わねばならぬ。
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『論語と算盤』成敗と運命・細心にして大胆なれ社会の進歩と共に、秩序が整って来るのは当然のことであるが、それと共に新規の活動を始めるに多少不便ともなり、自然保守に傾くようなことにもなる。もとより軽佻浮薄な行動は、いずれの場合においても慎むべきであるが、あまりに大事を考えて因循姑息となり、いわゆる固くもなり、惰弱に流るるごとき事ともなる結果、進歩発展を阻害する傾向を生じては個人の上においても、また国家の前途に関しても、甚だ憂うべき事と言わねばならぬ。
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『論語と算盤』処世と信条・士魂商才ゆえに私は人の世に処せんとして道を誤まらざらんとするには、まず論語を熟読せよというのである。現今世の進歩に従って欧米各国から新しい学説が入って来るが、その新しいというは我々から見ればやはり古いもので、既に東洋で数千年前に言っている事と同一のものを、ただ言葉の言い廻しをうまくしているに過ぎぬと思われるものが多い。欧米諸国の日進月歩の新しいものを研究するのも必要であるが、東洋古来の古いものの中にも棄て難いもののあることを忘れてはならぬ。
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