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論語と算盤 / 立志と学問・勇猛心の養成法

要するに、我国今日の状態は、姑息なる考を以て、従来の事業を謹直に継承して足れりとすべき時代ではない、尚だ創設の時代であつて、先進国の発展に企及し、更に凌駕せねばならぬのであるから、一般に一大覚悟を以て、万難を排し勇往猛進すべき時である、其れには不断心身の健全なる発達を促し、潑溂たる活動をなし得る活力を旺盛ならしむる心掛を忘れてはならぬ、青年に対して殊に此の点を望んで止まぬ次第である。

新字:要するに、我国今日の状態は、姑息なる考を以て、従来の事業を謹直に継承して足れりとすべき時代ではない、尚だ創設の時代であつて、先進国の発展に企及し、更に凌駕せねばならぬのであるから、一般に一大覚悟を以て、万難を排し勇往猛進すべき時である、其れには不断心身の健全なる発達を促し、溌溂たる活動をなし得る活力を旺盛ならしむる心掛を忘れてはならぬ、青年に対して殊に此の点を望んで止まぬ次第である。

書き下し

要するに、我が国今日の状態は、姑息なる考えをもって、従来の事業を謹直に継承して足れりとすべき時代ではない。まだ創設の時代であって、先進国の発展に企及し、さらに凌駕せねばならぬのであるから、一般に一大覚悟をもって、万難を排し勇往猛進すべき時である。それには不断心身の健全なる発達を促し、潑溂たる活動をなし得る活力を旺盛ならしむる心掛けを忘れてはならぬ。青年に対してことにこの点を望んでやまぬ次第である。

現代語訳

要するに、わが国の今日の状態は、その場しのぎの考えで、これまでの事業を慎み深く受け継いでいけば足りるという時代ではない。まだ創設の時代であって、先進国の発展に追いつき、さらにそれを追い越さなければならないのだから、一般に一大覚悟をもって、あらゆる困難を排して勇ましく猛進すべき時である。それには、ふだんから心身の健全な発達を促し、はつらつとした活動ができる活力を盛んにする心がけを忘れてはならない。青年に対しては、とくにこの点を望んでやまないのである。

解説

章の結びで、渋沢は勇猛心の修養を時代認識に結びつける。大正の日本は、先人の事業を謹直に継ぐだけで足りる守成の時代ではなく、まだ創設の時代だ、と言う。先進国に企及し、さらに凌駕せねばならない。だから一大覚悟で万難を排して進め、と。明治の半世紀で近代産業の骨組みを作った当事者が、まだ創業期だと言い切るところに重みがある。渋沢は完成を宣言せず、次の世代に未完の仕事を渡そうとしている。そのための条件として挙げるのが、心身の健全な発達と旺盛な活力である。精神論だけで終わらず、体を整えよという前段の具体論に戻ってくるのが渋沢らしい。事業が軌道に乗った組織ほど「守る」ことに傾く。まだ創設の途中だと思えるかどうかが、組織の活力を分けるのである。

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