葉隠 / 聞書第一
古人の覺悟は深き事なり。十三以上六十以下出陣と云ふ事あり。それ故に、古老は年をかくすといへり。
新字:古人の覚悟は深き事なり。十三以上六十以下出陣と云ふ事あり。それ故に、古老は年をかくすといへり。
書き下し
古人(こじん)の覚悟は深き事なり。十三以上六十以下出陣と云う事あり。それ故に、古老(ころう)は年をかくすといえり。
現代語訳
昔の人の覚悟は深いものだ。十三歳以上六十歳以下は出陣する、という決まりがあった。だからこそ老武士は自分の年齢を隠したのである。
解説
昔の武士は十三から六十までを戦の担い手と考えていました。だからこそ老武士は、年齢を理由に役目を免れることを潔しとせず、あえて年を隠して現役であり続けようとした、という一節です。背景には、老いても主君のために働く覚悟を失わない葉隠の武士像があります。年齢を言い訳にして責任から退くのではなく、最後まで一人前として立とうとする姿勢です。現代でも、年齢や立場を理由に挑戦や役割を手放してしまう場面は多いでしょう。この言葉は、いくつになっても現役の気概を保ち、自分を戦力として差し出し続ける生き方を静かに問いかけているように読めます。
この章句が説くこと
覚悟年齢を言い訳にしない現役の気概責任老いと務め武士道
関連する章句
-
葉隠・聞書第一役儀(やくぎ)を危(あぶ)なきと思うは、すくたれ者なり。外(ほか)の事、私(わたくし)の事にて仕損(しそん)ずるとこそ辱(はじ)にてもあるべし。その事に備(そな)わりたる身なれば、その事にて仕損ずるは定まりたることなり。不調法(ぶちょうほう)にて何と相勤(あいつと)むべきやとの心遣(こころづか)いは、あるべき事なり。
-
論語・衛霊公篇子曰わく、君子はこれを己に求め、小人はこれを人に求む。
-
『韓非子』初見秦第一大王誠に其の説を聴きて、一挙にして天下の従破れず、趙挙がらず、韓亡びず、荆・魏臣とせず、斉・燕親しまず、霸王の名成らず、四隣の諸侯朝せずんば、大王臣を斬りて以て国に徇え、以て王の為に謀りて忠ならざる者の戒めと為せ。
-
『塩鉄論』散不足篇賢良曰く、孔子史記を讀み、喟然として嘆ず、正德の廢れ、君臣の危きを傷めばなり。夫れ賢人君子は、天下を以て任と為す者なり。任大なる者は思うこと遠く、思うこと遠き者は近きを忘る。誠心閔悼し、惻隱爾に加わる、故に忠心獨りにして累無し。此れ詩人の傷みて作る所以にして、比干・子胥の身を遺れ禍を忘るる所以なり。其の人を勞するを惡むこと斯くの若く急なり、安んぞ能く默せんや。詩に云う、『憂心惔くが如し、敢えて戲談せず』と。孔子の棲棲たるは、固を疾めばなり。墨子の遑遑たるは、世を閔めばなり。/大夫默然たり。
-
葉隠・聞書第一途中にて俄雨(にわかあめ)にあいて、濡れじとて道を急ぎ走り、軒下(のきした)などを通りても、濡るる濡るる事は替わらざるなり。初めより思いはまりて濡るる濡るる時、心に苦しみなく濡るる濡るる事は同じ。これ万(よろ)づにわたる心得なり。
-
論語・憲問篇子曰く、『士にして居を懐(おも)えば、以て士と為すに足らず。』