論語と算盤 / 立志と学問・大正維新の覚悟
次第に壮年に進むにつれて有為なる人物となり、個人としても将た国家の一柱石としても信頼し得る人物となるのである。他日国家を双肩に荷うて立つべき青年に於ては、此際大に覚悟をなして、将来は日に月に激甚となるべき競争場裏に飛込まねばならず、今日の状態で経過すれば、国家の前途に対し、大に憂ふべき結果を生ぜぬとも限らぬのであることを思ひ、後来悔ゆるが如き愚をせぬやうに望むのである、明治維新の頃、万事創造の時代とも言ふべき不秩序を極めた時よりは、今日の状態は著しく発達して其の面影を一変し、社会百般の秩序も整備し、学問も普及して、事を為すに便宜も多いのであるから、周到なる細心と大胆なる行動とを以て活力を発揮したならば、大事業を経営するに極めて愉快を感ずるであらう、只か〻る秩序立ち、一般に教育が普及した時代ゆゑ、普通より少しぐらゐ進歩し、僅かに卓越した意気込を以て事に当つては、とても大勢を動かすことは出来ない、多少教育の弊害も生じ易い事情もあるのであるから、大勇猛心を発揮して活気を縦横に溢れしめ、区々たる情弊を打破して、向上の道を猛進せねばならぬ。
書き下し
次第に壮年に進むにつれて有為なる人物となり、個人としてもはた国家の一柱石としても信頼し得る人物となるのである。他日国家を双肩に荷うて立つべき青年においては、この際大いに覚悟をなして、将来は日に月に激甚となるべき競争場裏に飛び込まねばならず、今日の状態で経過すれば、国家の前途に対し、大いに憂うべき結果を生ぜぬとも限らぬのであることを思い、後来悔ゆるがごとき愚をせぬように望むのである。明治維新の頃、万事創造の時代とも言うべき不秩序を極めた時よりは、今日の状態は著しく発達してその面影を一変し、社会百般の秩序も整備し、学問も普及して、事をなすに便宜も多いのであるから、周到なる細心と大胆なる行動とをもって活力を発揮したならば、大事業を経営するに極めて愉快を感ずるであろう。ただかかる秩序立ち、一般に教育が普及した時代ゆえ、普通より少しぐらい進歩し、わずかに卓越した意気込みをもって事に当たっては、とても大勢を動かすことは出来ない。多少教育の弊害も生じやすい事情もあるのであるから、大勇猛心を発揮して活気を縦横にあふれしめ、区々たる情弊を打破して、向上の道を猛進せねばならぬ。
現代語訳
そうして次第に壮年へ進むにつれて役に立つ人物となり、個人としても、また国家の柱石の一つとしても信頼できる人物になるのである。いずれ国家を両肩に担って立つべき青年は、いまこそ大いに覚悟を決め、これから日に月に激しくなるに違いない競争の場へ飛び込まなければならない。今のままの状態で過ごしていけば、国家の前途にとって大いに憂うべき結果を生まないとも限らない。そのことを思って、のちに悔やむような愚かなことをしないよう望むのである。明治維新のころ、何もかもが創造の時代とも言うべき、無秩序をきわめた時に比べれば、今日の状態は著しく発達して様変わりし、社会のあらゆる秩序も整い、学問も普及して、事をなすのに便利なことも多い。だから、周到な細心さと大胆な行動とをもって活力を発揮すれば、大事業を経営するのはきわめて愉快に感じられるだろう。ただ、このように秩序が立ち、教育が広く行きわたった時代であるから、人並みより少し進んでいる程度、わずかに抜きん出た程度の意気込みで事に当たっても、とても大勢を動かすことはできない。多少は教育の弊害も生じやすい事情もあるのだから、大いなる勇猛心を発揮して活気を縦横にあふれさせ、こまごまとした悪弊を打ち破って、向上の道を猛進しなければならない。
解説
関連する章句
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『論語と算盤』立志と学問・勇猛心の養成法要するに、我が国今日の状態は、姑息なる考えをもって、従来の事業を謹直に継承して足れりとすべき時代ではない。まだ創設の時代であって、先進国の発展に企及し、さらに凌駕せねばならぬのであるから、一般に一大覚悟をもって、万難を排し勇往猛進すべき時である。それには不断心身の健全なる発達を促し、潑溂たる活動をなし得る活力を旺盛ならしむる心掛けを忘れてはならぬ。青年に対してことにこの点を望んでやまぬ次第である。
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『論語と算盤』立志と学問・大正維新の覚悟青年時代は血気時代であるから、その血気を善用して後日の幸福の基となることであれば、あくまでこれを発揮して、とかく保守に流れ、因循に陥りやすい老人をして、危険を感ぜしむるくらいに活動してもらいたいのである。
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『論語と算盤』立志と学問・大正維新の覚悟青年時代に正義のため失敗を恐れているようでは、到底見込のない者で、自分が正義と信ずる限りは、あくまで進取的に剛健なる行為を取ってもらいたい。正義の観念をもって進み、岩をも徹す鉄石心を傾倒すれば、成らざる事なしという意気込みで進まねばならぬ。この志さえあれば、いかなる困難をも突破し得るので、たとい失敗することがあっても、それは自己の注意の足らぬので、衷心いささかもやましい所がなければ、かえって多大の教訓を与えられ、一層剛健なる志を養い、ますます自信を生じ、勇気を生じて猛進することが出来る。
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『論語と算盤』成敗と運命・細心にして大胆なれまた余りに堅苦しく物事に拘泥し、細事に没頭する時は、自然に溌溂たる気力を銷磨し、進取の勇気を挫くことになるのであるから、この点も深く注意せねばならぬ。もとより細心周到なる努力は必要であるが、一方大胆なる気力を発揮して、細心大胆両者相待ち、溌溂たる活動をなし、始めて大事業を完成し得るものであるから、近来の傾向については、大いに警戒せねばならぬ。
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『論語と算盤』成敗と運命・細心にして大胆なれ近頃青年の間に新しい活気が勃興し、大いにその本領を発揮せんとする傾向を生じたのは、すなわち慶賀すべきことなるが、壮年社会に不活溌の傾向が依然として瀰蔓するようでは、憂うべき事と言わねばならぬ。独立不羈の精神を発揮するには、今日のごとく政府万能の状態で、民間の事業が政府の保護に恋々たる状の見えるごとき風を一掃し、鋭意民力を伸張して、政府を煩わさないで事業を発展せしむる覚悟が必要である。また細事に拘泥し部局の事にのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々としてその規定に触れまいとし、あるいはその規定内の事に満足し、齷齪しているようでは、とても新進の事業を経営し、溌溂たる生気を生じ、世界の大勢に駕することは覚束ない。
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『論語と算盤』成敗と運命・細心にして大胆なれ社会の進歩と共に、秩序が整って来るのは当然のことであるが、それと共に新規の活動を始めるに多少不便ともなり、自然保守に傾くようなことにもなる。もとより軽佻浮薄な行動は、いずれの場合においても慎むべきであるが、あまりに大事を考えて因循姑息となり、いわゆる固くもなり、惰弱に流るるごとき事ともなる結果、進歩発展を阻害する傾向を生じては個人の上においても、また国家の前途に関しても、甚だ憂うべき事と言わねばならぬ。
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