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論語と算盤 / 立志と学問・大正維新の覚悟

維新といふことは、湯の盤の銘に曰ふ『苟に日に新なり、日に日に新にして、又日に新なり』といふ意味であるから、潑溂たる気力を発揮するときは、自然に生れたる新気力を生じ、進鋭の活動が出来るのである、大正維新といふも畢竟この意味で、大に覚悟を定めて、上下一致の活動を現はしたいものであるが、一般が保守退嬰の風に傾いて居る際であるから、一層の奮励努力を要するので、是を明治維新の人物の活動に比較して大に猛省せねばならぬ、明治維新以来の事業中には、失敗に帰したものも有つたが、多数の事業は非常なる元気と精力とを以て、駸々として発展し来つたので、他に種々な原因があつたにしろ、元気と精力の偉大なるものである。

新字:維新といふことは、湯の盤の銘に曰ふ『苟に日に新なり、日に日に新にして、又日に新なり』といふ意味であるから、溌溂たる気力を発揮するときは、自然に生れたる新気力を生じ、進鋭の活動が出来るのである、大正維新といふも畢竟この意味で、大に覚悟を定めて、上下一致の活動を現はしたいものであるが、一般が保守退嬰の風に傾いて居る際であるから、一層の奮励努力を要するので、是を明治維新の人物の活動に比較して大に猛省せねばならぬ、明治維新以来の事業中には、失敗に帰したものも有つたが、多数の事業は非常なる元気と精力とを以て、駸々として発展し来つたので、他に種々な原因があつたにしろ、元気と精力の偉大なるものである。

書き下し

維新ということは、湯の盤の銘に曰う「まことに日に新たなり、日に日に新たにして、また日に新たなり」という意味であるから、潑溂たる気力を発揮するときは、自然に生まれたる新気力を生じ、進鋭の活動が出来るのである。大正維新というも畢竟この意味で、大いに覚悟を定めて、上下一致の活動を現したいものであるが、一般が保守退嬰の風に傾いている際であるから、一層の奮励努力を要するので、これを明治維新の人物の活動に比較して大いに猛省せねばならぬ。明治維新以来の事業中には、失敗に帰したものもあったが、多数の事業は非常なる元気と精力とをもって、駸々として発展し来ったので、他に種々な原因があったにしろ、元気と精力の偉大なるものである。

現代語訳

維新というのは、殷の湯王が洗面の盤に刻んだ銘にいう「まことに日に新たに、日々に新たにし、さらに日に新たにせよ」という意味であるから、はつらつとした気力を発揮すれば、おのずと新しい気力が生まれ、鋭く前へ進む活動ができるのである。大正維新というのも結局はこの意味であって、大いに覚悟を定め、上下が一致して活動したいものだ。しかし世間一般が保守的で引っ込み思案な気風に傾いているときであるから、いっそうの奮励努力が必要であり、明治維新の人物たちの活動と比べて、大いに反省しなければならない。明治維新以来の事業のなかには失敗に終わったものもあったが、多くの事業は非常な元気と精力をもって、ぐんぐん発展してきた。ほかにもいろいろな原因があったにせよ、元気と精力の力は偉大なものである。

解説

章の冒頭で、渋沢は「維新」という語を政治事件から引きはがし、『大学』が引く湯の盤の銘に結びつける。殷の湯王が毎朝顔を洗う盤に「苟に日に新たなり」と刻み、日々自分を新しくすることを戒めたという故事である。そうであれば維新は一度きりの革命ではなく、毎日の心構えになる。大正の世は明治の創業期と違い、秩序が整った分だけ保守退嬰に流れていた。渋沢は明治の事業にも失敗はあったと認めつつ、それでも多くが伸びたのは元気と精力のおかげだったと言う。原因を一つに絞らず「他に種々な原因があつたにしろ」と断るところに、実務家の慎重さがのぞく。創業の熱が落ち着いた二代目以降の組織にこそ、この日新の戒めは当てはまる。

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