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論語と算盤 / 処世と信条・争ひの可否

孟子も告子章句下に於て『無敵国外患者、国恒亡』と申されて居るが、如何にも其の通りで、国家が健全なる発達を遂げて参らうとするには、商工業に於ても、学術技芸に於ても、外交に於ても、常に外国と争つて必ず之に勝つて見せる、といふ意気込みが無ければならぬものである、啻に国家のみならず、一個人におきましても、常に四囲に敵があつて之に苦められ、その敵と争つて必ず勝つて見ませうとの気が無くては、決して発達進歩するもので無い。

書き下し

孟子も告子章句下において『無敵国外患者、国恒亡』と申されているが、いかにもその通りで、国家が健全なる発達を遂げて参ろうとするには、商工業においても、学術技芸においても、外交においても、常に外国と争って必ずこれに勝って見せる、という意気込みが無ければならぬものである。ただに国家のみならず、一個人におきましても、常に四囲に敵があってこれに苦しめられ、その敵と争って必ず勝って見せましょうとの気が無くては、決して発達進歩するものでない。

現代語訳

孟子も告子章句下で「敵対する国や外からの患いがない国は、常に滅びる」と申されているが、まったくその通りで、国家が健全な発達を遂げていこうとするには、商工業においても、学術や技芸においても、外交においても、常に外国と争って必ずこれに勝ってみせる、という意気込みがなければならない。国家ばかりでなく、一個人においても、常に周囲に敵がいてそれに苦しめられ、その敵と争って必ず勝ってみせようという気持ちがなければ、決して発達し進歩するものではない。

解説

争いが必要である根拠として、渋沢は孟子告子篇下の「敵国外患無き者は国恒に亡ぶ」を引く。この句の前には「入りては則ち法家払士無く」とあり、国内に厳しく諫める臣がなく、国外に競う敵もない国は必ず滅びる、という意味である。渋沢はこれを国家に当てはめ、商工業でも学術でも外交でも外国と争って勝つ意気込みが要ると言い、さらに個人にも広げる。周囲に敵があって苦しめられ、それに勝とうとする気がなければ進歩しない。明治・大正の日本が欧米列強に追いつくことを国家目標にしていた時代の言葉だが、競争相手の存在が成長の条件になるという洞察は普遍的である。競合のいない市場で安住する企業、反対意見の出ない会議、厳しい上司のいない職場。どれも居心地は良いが、衰えはそこから始まる。

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