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論語と算盤 / 処世と信条・論語は万人共通の実用的教訓

其れからといふものは、勢ひ論語を読まなければならぬ事になり、中村敬宇先生や、信夫恕軒先生に講義を聴いた、何れも多忙なものだから、終りまでは成し遂げなんだが、最近からは大学の宇野さんに願つて復た始めた、主として子供の為に遣つて居るが、私も必ず出席して聴き、そして種々と質問し、又解釈に就て意見が出たりして、中々面白く有益である、一章々々講義し、皆で考へて本当に分つて後進むのだから中々進まないが、その代り意味は善く判つて、子供なども大変に面白がつて居る。

書き下し

それからというものは、勢い論語を読まなければならぬ事になり、中村敬宇先生や、信夫恕軒先生に講義を聴いた。いずれも多忙なものだから、終わりまでは成し遂げなんだが、最近からは大学の宇野さんに願ってまた始めた。主として子供のためにやっているが、私も必ず出席して聴き、そして種々と質問し、また解釈について意見が出たりして、なかなか面白く有益である。一章一章講義し、皆で考えて本当に分かって後進むのだからなかなか進まないが、その代わり意味はよく判って、子供なども大変に面白がっている。

現代語訳

それからというものは、自然と論語を読まなければならないことになり、中村敬宇先生や信夫恕軒先生に講義を聴いた。どちらも忙しかったので、最後までやり遂げることはできなかったが、最近になって大学の宇野(哲人)さんにお願いして、また始めた。主に子どもたちのためにやっているのだが、私も必ず出席して聴き、いろいろと質問したり、解釈について意見が出たりして、なかなか面白く有益である。一章ずつ講義して、皆で考え、本当に分かってから先へ進むのだから、なかなか進まないが、その代わり意味はよく分かり、子どもたちもたいへん面白がっている。

解説

論語を標準にすると決めた渋沢が、その後どう論語を学び続けたかを語る段である。中村敬宇は『西国立志編』の訳者として知られる漢学者・洋学者、信夫恕軒は漢学者で、いずれも明治の名だたる学者である。多忙で完結しなかったが、晩年には東京帝国大学の宇野哲人に頼んで講義を再開し、子どもたちと並んで席に着いた。一章ずつ、皆で考え、本当に分かってから先へ進む。この進め方は、読書の量ではなく理解の深さを重んじる渋沢の姿勢をよく表している。七十を過ぎた実業界の第一人者が、学者に質問し、子どもたちと議論しながら古典を読んでいたという事実は、それ自体が教えになる。学び続けることを口で説くより、自ら席に着いて見せるほうが家族にも部下にも伝わる。

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