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論語と算盤 / 処世と信条・士魂商才

故に私は人の世に処せんとして道を誤まらざらんとするには、先づ論語を熟読せよと云ふのである、現今世の進歩に従つて欧米各国から新しい学説が入つて来るが、其新しいといふは我々から見れば矢張古いもので、既に東洋で数千年前に言つて居る事と同一の者を、唯言葉の言ひ廻しを旨くして居るに過ぎぬと思はれるものが多い、欧米諸国の日進月歩の新しい者を研究するのも必要であるが、東洋古来の古い者の中にも棄て難い者のあることを忘れてはならぬ。

書き下し

ゆえに私は人の世に処せんとして道を誤まらざらんとするには、まず論語を熟読せよというのである。現今世の進歩に従って欧米各国から新しい学説が入って来るが、その新しいというは我々から見ればやはり古いもので、既に東洋で数千年前に言っている事と同一のものを、ただ言葉の言い廻しをうまくしているに過ぎぬと思われるものが多い。欧米諸国の日進月歩の新しいものを研究するのも必要であるが、東洋古来の古いものの中にも棄て難いもののあることを忘れてはならぬ。

現代語訳

だから私は、世の中を渡っていくうえで道を誤るまいとするなら、まず論語をよく読めと言うのである。今日、世の進歩につれて欧米各国から新しい学説が入ってくるが、その新しいというものも、私たちから見ればやはり古いもので、すでに東洋で数千年前に言われていることと同じことを、ただ言い回しをうまくしているにすぎないと思われるものが多い。欧米諸国の日進月歩の新しいものを研究するのも必要ではあるが、東洋古来の古いものの中にも捨てがたいものがあることを忘れてはならない。

解説

士魂商才の章の結びである。渋沢は、道を誤らずに世を渡るにはまず論語を熟読せよと勧め、欧米から入ってくる新学説の多くは東洋が数千年前に言ったことの言い換えにすぎないと述べる。これは西洋を拒む言葉ではない。渋沢自身、幕末にパリ万国博覧会へ随行して株式会社や銀行の仕組みを学び、それを日本に移植した人物である。新しいものの研究は必要だと明言したうえで、古いものの中にも捨てがたいものがあると念を押している。要は順序と重心の問題で、手法は新しく取り入れても、人としての道の判断は古典に鍛えられた軸で行えということだ。経営の流行語が次々と入れ替わる今日、その中身が昔から言われてきた人間理解の焼き直しであることは少なくない。流行を追う前に、変わらないものを一冊持っておく意味がここにある。

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