驢鞍橋 / 卷中
又異國の言に父羊を賊めは、子是れを以て現す、是れを正直とす。又或は父羊を賊めは、子是れを藏す、直きこと其中にあり。是れを正直とす抔といへり。今時の人に正直の體をいへといはは、云ふ人有るへからす。故に終に聞かねとも、理を正し義を行て、私の心なきを正直の体と書く也。我正直の体は是れ也。又佛法の上に正直と云ふは、一切有爲の法は、虚妄幻化の僞なりと悟て、本來本法身天然自性の儘に用ひた人間を、眞の正直と云ふは、態と高く書きた也。十牛ならは、十番の瓢を提て鄽に入た境界抔か、天然自性の儘に用ひた人也。凡夫者、先つ病を知るへし。生死無明の心中に、顚倒迷妄の病あり、慳貪邪見の病あり、怯弱不義の病あり、三毒の心を根本として、八萬四千の煩惱の病となる。此の心を除滅するを佛法と云ふ也。是れ世法に異ならんや。何と惡い事をなくするを、世法に背ひた事と云はんや。
新字:又異国の言に父羊を賊めは、子是れを以て現す、是れを正直とす。又或は父羊を賊めは、子是れを蔵す、直きこと其中にあり。是れを正直とす抔といへり。今時の人に正直の体をいへといはは、云ふ人有るへからす。故に終に聞かねとも、理を正し義を行て、私の心なきを正直の体と書く也。我正直の体は是れ也。又仏法の上に正直と云ふは、一切有為の法は、虚妄幻化の偽なりと悟て、本来本法身天然自性の儘に用ひた人間を、真の正直と云ふは、態と高く書きた也。十牛ならは、十番の瓢を提て鄽に入た境界抔か、天然自性の儘に用ひた人也。凡夫者、先つ病を知るへし。生死無明の心中に、顛倒迷妄の病あり、慳貪邪見の病あり、怯弱不義の病あり、三毒の心を根本として、八万四千の煩悩の病となる。此の心を除滅するを仏法と云ふ也。是れ世法に異ならんや。何と悪い事をなくするを、世法に背ひた事と云はんや。
書き下し
又異国の言に父羊を賊めは、子是れを以て現す、是れを正直とす。又或は父羊を賊めは、子是れを蔵す、直きこと其中にあり。是れを正直とす抔といへり。今時の人に正直の体をいへといはは、云ふ人有るへからす。故に終に聞かねとも、理を正し義を行て、私の心なきを正直の体と書く也。我正直の体は是れ也。又仏法の上に正直と云ふは、一切有為の法は、虚妄幻化の偽なりと悟て、本来本法身天然自性の儘に用ひた人間を、真の正直と云ふは、態と高く書きた也。十牛ならは、十番の瓢を提て鄽に入た境界抔か、天然自性の儘に用ひた人也。凡夫者、先つ病を知るへし。生死無明の心中に、顛倒迷妄の病あり、慳貪邪見の病あり、怯弱不義の病あり、三毒の心を根本として、八万四千の煩悩の病となる。此の心を除滅するを仏法と云ふ也。是れ世法に異ならんや。何と悪い事をなくするを、世法に背ひた事と云はんや。
現代語訳
また異国の言葉に「父が羊を盗めば、子がこれを証言する。これを正直とする」とある。また「父が羊を盗めば、子はこれを隠す。直きことはその中にある。これを正直とする」などとも言う。今の人に正直の本体を言えと言っても、言える人はいないだろう。だから結局聞いたことはないけれども、理を正し義を行って私心のないことを正直の本体と書いたのである。私の言う正直の本体はこれである。また仏法の上での正直として、「一切の有為の法は虚妄幻化の偽りだと悟って、本来の法身、天然自性のままに用いる人を真の正直という」と書いたのは、わざと高く書いたのである。十牛図で言えば、十番目の、瓢箪を提げて町に入った境地などが、天然自性のままに用いた人である。凡夫はまず病を知りなさい。生死無明の心の中に、顛倒迷妄の病があり、慳貪邪見の病があり、臆病で不義の病があり、三毒の心を根本として八万四千の煩悩の病となる。この心を除き滅するのを仏法というのである。これが世法と異なるだろうか。どうして悪いことをなくすのを、世法に背いたことと言えようか。
解説
この章句が説くこと
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