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驢鞍橋 / 卷中

又のふ物たべのふと狂ひ出るも大なる錯也。なに悟道人の氣の違ふと云ふことあらんや。爰を古の狂氣の有樣學はんて御見せ候へと云つて、さらいゑぼしをめせと仕によせ、アヒの男を出し、さて其の後出てまねに狂ふにしたし。又キリに花を佛に手向つゝ悟の道に入らうよと云ふも、相違した云ひやう也。又凡夫に仕成したり、でかい錯ではをりないか故に我造り直しけるを松平和泉守殿見て、觀世左近太夫にみせ、御前能の時分させんと云つて取り給ふ也

新字:又のふ物たべのふと狂ひ出るも大なる錯也。なに悟道人の気の違ふと云ふことあらんや。爰を古の狂気の有様学はんて御見せ候へと云つて、さらいゑぼしをめせと仕によせ、アヒの男を出し、さて其の後出てまねに狂ふにしたし。又キリに花を仏に手向つゝ悟の道に入らうよと云ふも、相違した云ひやう也。又凡夫に仕成したり、でかい錯ではをりないか故に我造り直しけるを松平和泉守殿見て、観世左近太夫にみせ、御前能の時分させんと云つて取り給ふ也

書き下し

又のふ物たべのふと狂ひ出るも大なる錯也。なに悟道人の気の違ふと云ふことあらんや。爰を古の狂気の有様学はんて御見せ候へと云つて、さらいゑぼしをめせと仕によせ、アヒの男を出し、さて其の後出てまねに狂ふにしたし。又キリに花を仏に手向つゝ悟の道に入らうよと云ふも、相違した云ひやう也。又凡夫に仕成したり、でかい錯ではをりないか故に我造り直しけるを松平和泉守殿見て、観世左近太夫にみせ、御前能の時分させんと云つて取り給ふ也

現代語訳

また「のう物賜べ、のう」と狂い出るのも大きな誤りである。どうして悟道の人の気が違うということがあろうか。ここは「昔の狂気の有様をまねて御見せください」と言って、「さらば烏帽子を召せ」と仕草に寄せ、アイの男を出し、さてその後に出てきて、まねとして狂うようにしたい。また、キリで「花を仏に手向けつつ、悟りの道に入ろうよ」と言うのも、筋の違った言い方である。これもまた凡夫にしてしまった。大きな誤りではないか。それゆえ私が造り直したのを、松平和泉守殿が見て、観世左近太夫に見せ、御前能のときに演じさせようと言って持って行かれたのである。

解説

卒都婆小町の批評の結びで、正三は悟った小町が本当に狂うのはおかしく、昔の狂気をまねて見せる形にすべきだと述べる。結末の悟りの道に入ろうよという詞章も、すでに悟っている人物を凡夫に戻してしまうと退けた。そうして正三が自ら書き直した台本は松平和泉守の目にとまり、観世左近太夫に見せて御前能で演じさせようと持ち帰られたという。批判にとどまらず、作り直して実際に形にしたところに正三の実行力がある。問題を指摘するだけでなく、自分で改訂案を作って示すことの説得力を教える一条である。

この章句が説くこと

芸道謡曲卒都婆小町改作実行観世

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