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驢鞍橋 / 卷中

又卒都婆小町のワキのサシに、抑も是は高野より出てたる僧と云ふ時は、先づ弘法よ、しかるに我か爲めに心も留むる子もなしと云ふは不出來也。なに出家のまた子を持つと云ふことあらんや。又哀やげにと云ふ處にて、右のかげの女とて若きを連れ出したし。又花さきし木はかくれなしと云ふても卒都婆のしるしに成り難し。又逆緣なりと浮ふへしと云ふもよわい言ひ樣也。又我は其の時力を得と云ふも悟道の人に似合はぬ云ひ樣なり。又歌もでき口にて、意に當らず。

新字:又卒都婆小町のワキのサシに、抑も是は高野より出てたる僧と云ふ時は、先づ弘法よ、しかるに我か為めに心も留むる子もなしと云ふは不出来也。なに出家のまた子を持つと云ふことあらんや。又哀やげにと云ふ処にて、右のかげの女とて若きを連れ出したし。又花さきし木はかくれなしと云ふても卒都婆のしるしに成り難し。又逆縁なりと浮ふへしと云ふもよわい言ひ様也。又我は其の時力を得と云ふも悟道の人に似合はぬ云ひ様なり。又歌もでき口にて、意に当らず。

書き下し

又卒都婆小町のワキのサシに、抑も是は高野より出てたる僧と云ふ時は、先づ弘法よ、しかるに我か為めに心も留むる子もなしと云ふは不出来也。なに出家のまた子を持つと云ふことあらんや。又哀やげにと云ふ処にて、右のかげの女とて若きを連れ出したし。又花さきし木はかくれなしと云ふても卒都婆のしるしに成り難し。又逆縁なりと浮ふへしと云ふもよわい言ひ様也。又我は其の時力を得と云ふも悟道の人に似合はぬ云ひ様なり。又歌もでき口にて、意に当らず。

現代語訳

また、卒都婆小町のワキのサシで「そもそもこれは高野山から出た僧」と言うときには、まず弘法大師の門流である。それなのに「我がために心を留める子もない」と言うのは不出来である。どうして出家がまた子を持つということがあろうか。また「哀れやげに」と言うところで、右のかげの女(面影の女か)として若い女を連れ出したい。また「花咲きし木は隠れなし」と言っても、卒都婆のしるしにはなりにくい。また「逆縁なりと浮かぶべし」と言うのも弱い言い方である。また「我はその時力を得」と言うのも、悟道の人に似合わない言い方である。また歌も口先の出来で、意にかなわない。

解説

正三はもう一曲、『卒都婆小町』にも筆を入れる。高野山の僧が子を持つかのような詞章や、悟った老女が力を得たなどと言う弱い言い回しを、登場人物の立場に似合わないと退けている。小町を悟道の人として描く以上、その言葉も悟った人にふさわしいものでなければならないという考えである。人物の立場と言葉づかいを一致させることは、どんな物語や文章にも通じる基本である。部下や顧客に向けた自分の言葉が、自分の役割にふさわしいかを振り返るきっかけにもなる。

この章句が説くこと

芸道謡曲卒都婆小町悟道言葉推敲

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