立正安国論 / 『立正安国論』残る二つの難
藥師經七難內五難忽起二難猶殘所以他國侵逼難自界叛逆難也大集經三災內二災早顯一災未起所以兵革災也金光明經內種種災過一一雖起他方怨賊侵掠國內此災未露此難未來仁王經七難內六難今盛一難未現所以四方賊來侵國難也加之國土亂時先鬼神亂鬼神亂故萬民亂今就此文具案事情百鬼早亂萬民多亡先難是明後災何疑若所殘之難依惡法之科並起競來者其時何爲哉帝王者某國家而治天下人臣者領田園而保世上而他方賊來而侵逼其國自界叛逆而掠領其地豈不驚哉豈不騷哉失國滅家何所遁世汝須思一身之安堵者先禱四表之靜謐者歟
新字:薬師経七難内五難忽起二難猶残所以他国侵逼難自界叛逆難也大集経三災内二災早顕一災未起所以兵革災也金光明経内種種災過一一雖起他方怨賊侵掠国内此災未露此難未来仁王経七難内六難今盛一難未現所以四方賊来侵国難也加之国土乱時先鬼神乱鬼神乱故万民乱今就此文具案事情百鬼早乱万民多亡先難是明後災何疑若所残之難依悪法之科並起競来者其時何為哉帝王者某国家而治天下人臣者領田園而保世上而他方賊来而侵逼其国自界叛逆而掠領其地豈不驚哉豈不騷哉失国滅家何所遁世汝須思一身之安堵者先祷四表之静謐者歟
書き下し
薬師経の七難の内、五難忽ちに起こりて二難猶お残れり。所以は他国侵逼難、自界叛逆難なり。大集経の三災の内、二災早く顕われて一災未だ起こらず。所以は兵革の災なり。金光明経の内、種種の災過、一一起こると雖も、他方の怨賊国内を侵掠する、此の災未だ露われず、此の難未だ来たらず。仁王経の七難の内、六難今盛んにして一難未だ現ぜず。所以は四方の賊来たりて国を侵すの難なり。加之、国土乱れん時は先ず鬼神乱る、鬼神乱るるが故に万民乱る、と。今此の文に就いて具さに事情を案ずるに、百鬼早く乱れ万民多く亡ぶ。先難是れ明らかなり、後災何ぞ疑わん。若し残る所の難、悪法の科に依って並び起こり競い来たらん時は其れ何為んや。帝王は国家を以て基として天下を治め、人臣は田園を領して世上を保つ。而るに他方の賊来たりて其の国を侵逼し、自界叛逆して其の地を掠領せば、豈驚かざらんや、豈騒がざらんや。国を失い家を滅ぼさば、何れの所にか世を遁れん。汝須く一身の安堵を思わば、先ず四表の静謐を祈るべきものか。
現代語訳
薬師経の七難のうち、五つの難はすでに起こり、二つの難がなお残っています。その二つとは、他国から攻められる難と、国内で反乱が起こる難です。大集経の三つの災いのうち、二つはすでに現れ、一つがまだ起こっていません。それは戦乱の災いです。金光明経に説く種々の災いは、一つ一つ起こってはいますが、他国の賊が国内を侵し奪う災いはまだ現れておらず、この難はまだ来ていません。仁王経の七難のうち、六つの難は今まさに盛んで、一つの難がまだ現れていません。それは四方から賊が来て国を侵す難です。さらに、国土が乱れるときはまず鬼神が乱れ、鬼神が乱れるので万民が乱れる、ともあります。この文によって事情をつぶさに考えると、百鬼はすでに乱れ、万民の多くが亡くなっています。先の難がこのように明らかなのですから、後の災いをどうして疑えるでしょうか。もし残った難が、悪法の咎によって並び起こり競って来たときは、どうするのですか。帝王は国家を基として天下を治め、臣下は田園を領して世の中を保っています。それなのに他国の賊が来てその国を侵し、国内で反乱が起きてその地を奪い取れば、驚かずにいられるでしょうか、騒がずにいられるでしょうか。国を失い家を滅ぼしたなら、どこへ世を逃れるのですか。あなたがまず自分一身の安全を思うのなら、まず四方の静けさを祈るべきではないでしょうか。
解説

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立正安国論・『立正安国論』仁王経 七難の起こり仁王経に云く、国土乱れん時は、先ず鬼神乱る。鬼神乱るるが故に、万民乱る。賊来たりて国を劫かし、百姓亡喪し、臣君太子王子百官共に是非を生ず。天地恠異し、二十八宿、星道、日月、時を失い度を失い、多く賊起こること有らん。亦た云く、我れ今五眼をもって明らかに三世の一切の国王を見るに、皆な過去世に五百の仏に侍えしに由って、帝王の主と為ることを得たり。是れ一切の聖人、羅漢をして、而も為に来生して、彼の国土の中に大利益を作さしむ。若し王の福尽きん時は、一切の聖人皆な為に捨て去らん。若し一切の聖人去らん時は、七難必ず起こらん。薬師経に云く、刹帝利、灌頂王等、災難起こらん時、所謂る人衆疾疫の難、他国侵逼の難、自界叛逆の難、星宿変怪の難、日月薄蝕の難、非時風雨の難、過時不雨の難なり。
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立正安国論・『立正安国論』仁王経 七難の詳細仁王経に云く、大王、吾れ今化する所の百億の須弥、百億の日月、一一の須弥に四天下有り。其の南閻浮提に十六の大国、五百の中国、十千の小国有り。其の国土の中に七つの可畏の難有り。一切の国王、是の難の為の故に、云何なるを難と為す。日月度を失い、時節反逆し、或いは赤日出で、黒日出で、二三四五の日出で、或いは日蝕して光無く、或いは日輪一重二三四五重の輪現ずるを、一の難と為すなり。二十八宿度を失い、金星、彗星、輪星、鬼星、火星、水星、風星、刀星、南斗、北斗、五鎮の大星、一切の国主星、三公星、百官星、是の如き諸星各各変現するを、二の難と為すなり。大火国を焼き、万姓焼尽し、或いは鬼火、龍火、天火、山神火、人火、樹木火、賊火あり、是の如き変怪を、三の難と為すなり。大水百姓を漂没し、時節反逆し、冬雨ふり夏雪ふり、冬時に雷電霹靂し、六月に氷霜雹を雨らし、赤水、黒水、青水を雨らし、土山石山を雨らし、沙礫石を雨らし、江河逆流し、山を浮かべ石を流す、是の如き変ずる時を、四の難と為すなり。大風万姓を吹き殺し、国土山河樹木一時に滅没し、非時の大風、黒風、赤風、青風、天風、地風、火風、水風あり、是の如き変を、五の難と為すなり。天地国土亢陽し、炎火洞然として、百草亢旱し、五穀登らず、土地赫燃して、万姓滅尽す、是の如き変ずる時を、六の難と為すなり。四方の賊来たりて国を侵し、内外の賊起こり、火賊、水賊、風賊、鬼賊ありて、百姓荒乱し、刀兵劫起こる、是の如き怪の時を、七の難と為すなり。
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立正安国論・『立正安国論』旅客の嘆き 世の惨状旅客来たりて歎じて曰く、近年より近日に至るまで、天変地夭、飢饉疫癘、遍く天下に満ち、広く地上に迸る。牛馬巷に斃れ、骸骨路に充てり。死を招くの輩、既に大半を超え、悲しまざるの族、敢て一人も無し。然る間、或いは剣を利くすという即是の文を専らにして西土教主の名を唱え、或いは病悉く除くの願を恃みて東方如来の経を誦し、或いは病即ち消滅して不老不死という詞を仰ぎて法華真実の妙文を崇め、或いは七難即滅七福即生の句を信じて百座百講の儀を調え、秘密真言の教に因りて五瓶の水を灑ぐ有り、坐禅入定の儀を全うして空観の月を澄ます有り、若しくは七鬼神の号を書して千門に押し、若しくは五大力の形を図して万戸に懸け、若しくは天神地祇を拝して四角四堺の祭祀を企て、若しくは万民百姓を哀れんで国主国宰の徳政を行う。然りと雖も唯だ肝胆を摧くのみにして、弥いよ飢疫に逼られ、乞客目に溢れ、死人眼に満てり。臥屍を観と為し、並尸を橋と作す。夫れ二離璧を合わせ、五緯珠を連ね、三宝世に在り、百王未だ窮まらざるに、此の世早く衰え、其の法何ぞ廃れたる。是れ何の禍いに依り、是れ何の誤りに由るや。
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立正安国論・『立正安国論』金光明経 四王の捨国主人曰く、其の文繁多にして、其の証弘博なり。金光明経に云く、其の国土に於いて此の経有りと雖も、未だ嘗て流布せず、捨離の心を生じて、聴聞することを楽しまず、亦た供養し尊重し讃歎せず、四部の衆、経を持つ人を見ても、亦復た尊重し乃至供養すること能わず。遂に我等及び余の眷属、無量の諸天をして、此の甚深の妙法を聞くことを得ず、甘露の味に背き、正法の流れを失い、威光及び勢力有ること無からしむ。悪趣を増長し、人天を損減し、生死の河に堕ち、涅槃の路に乖かん。世尊、我等四王并びに諸の眷属及び薬叉等、斯くの如き事を見て、其の国土を捨てて、擁護の心無けん。但だ我等のみ捨棄するに非ず、是の王にも亦た無量の国土を守護する諸の大善神有りて、皆悉く捨て去らん。既に捨離し已れば、其の国当に種種の災禍有りて、国位を衰失すべし。一切の人衆、皆な善心無く、唯だ繋縛、殺害、瞋諍有りて、互いに相い讒諂し、枉げて無辜に及ぼし、疫病流行し、彗星数しば出で、両日並び現じ、薄蝕恒無く、黒白の二虹、不祥の相を表し、星流れ地動き、井の内に声を発し、暴雨悪風、時節に依らず、常に飢饉に遭いて、苗実成らず、多く他方の怨賊有りて、国内を侵掠し、人民諸の苦悩を受け、土地に楽しむべき処有ること無けん。
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立正安国論・『立正安国論』大集経 三不祥と客の迷い大集経に云く、若し国王有りて、無量世に於いて施戒慧を修せんも、我が法の滅せんと欲するを見て、捨てて擁護せずんば、是の如く種うる所の無量の善根、悉く皆な滅失し、其の国に当に三の不祥の事有るべし。一には穀貴、二には兵革、三には疫病なり。一切の善神悉く之を捨離せば、其の王の教令、人随従せず、常に隣国の為に侵嬈せられ、暴火横さまに起こり、悪き風雨多く、暴水増長し、人民を吹き漂わし、内外の親戚其れ共に謀叛せん。其の王久しからずして当に重病に遇い、寿終わるの後、大地獄の中に生ぜん。乃至王の夫人、太子、大臣、城主、村主、郡守、宰官も亦復た是の如し。夫れ四経の文は朗らかなり、万人誰か疑わん。而るに盲瞽の輩、迷惑の人、妄りに邪説を信じて、正教を弁えず。故に天下世上、諸仏衆経に於いて、捨離の心を生じ、擁護の志無し。仍って善神聖人、国を捨て所を去る。是を以て悪鬼外道、災いを成し難を致す。
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立正安国論・『立正安国論』主人の応答 災難の由来主人曰く、独り此の事を愁えて、憤悱胸臆に在り。客来たりて共に嘆く、屢しば談話を致さん。夫れ出家して道に入る者は、法に依って仏を期するなり。而るに今、神術協わず、仏威験無し。具さに当世の体を覩て、愚かに後生の疑いを発す。然れば則ち円覆を仰いで恨みを呑み、方載に俯して深く愁う。倩ら微管を傾け、聊か経文を披くに、世皆正に背き、人悉く悪に帰す。故に善神国を捨てて相い去り、聖人所を辞して還らず。是を以て魔来たり、鬼来たり、災起こり、難起こる。言わずんばあるべからず、恐れずんばあるべからず。客曰く、天下の災い、国中の難、余独り嘆くに非ず、衆皆悲しむ。今、蘭室に入りて初めて芳詞を承る。神聖去り辞して、災難並び起こると、何の経に出でたるや。其の証を聞かん。