立正安国論 / 『立正安国論』主人の応答 災難の由来
主人曰獨愁此事憤悱胸臆客來共嘆屢致談話夫出家而入道者依法而期佛也而今神術不協佛威無驗具覩當世之體愚發後生之疑然則仰圓覆而吞恨俯方載而深愁倩傾微管聊披經文世皆背正人悉歸惡故善神捨國而相去聖人辭所而不還是以魔來鬼來灾起難起不可不言不可不恐客曰天下之灾國中之難余非獨嘆衆皆悲今入蘭室初承芳詞神聖去辭灾難並起出何經哉聞其證攝矣
新字:主人曰独愁此事憤悱胸臆客来共嘆屡致談話夫出家而入道者依法而期仏也而今神術不協仏威無験具睹当世之体愚発後生之疑然則仰円覆而呑恨俯方載而深愁倩傾微管聊披経文世皆背正人悉帰悪故善神捨国而相去聖人辞所而不還是以魔来鬼来災起難起不可不言不可不恐客曰天下之災国中之難余非独嘆衆皆悲今入蘭室初承芳詞神聖去辞災難並起出何経哉聞其証摂矣
書き下し
主人曰く、独り此の事を愁えて、憤悱胸臆に在り。客来たりて共に嘆く、屢しば談話を致さん。夫れ出家して道に入る者は、法に依って仏を期するなり。而るに今、神術協わず、仏威験無し。具さに当世の体を覩て、愚かに後生の疑いを発す。然れば則ち円覆を仰いで恨みを呑み、方載に俯して深く愁う。倩ら微管を傾け、聊か経文を披くに、世皆正に背き、人悉く悪に帰す。故に善神国を捨てて相い去り、聖人所を辞して還らず。是を以て魔来たり、鬼来たり、災起こり、難起こる。言わずんばあるべからず、恐れずんばあるべからず。客曰く、天下の災い、国中の難、余独り嘆くに非ず、衆皆悲しむ。今、蘭室に入りて初めて芳詞を承る。神聖去り辞して、災難並び起こると、何の経に出でたるや。其の証を聞かん。
現代語訳
主人が言いました。私もひとりこのことを憂えて、胸のうちに憤りと悶えを抱いてきました。あなたが来られて共に嘆くのですから、しばしば語り合いたいと思います。そもそも出家して仏道に入る者は、法によって仏になることを願うものです。それなのに今、神仏の術は応ぜず、仏の威力にも験がありません。つぶさに今の世のありさまを見て、愚かにも来世への疑いを起こしました。そこで天を仰いで恨みを呑み、地に伏して深く愁えています。つくづく拙い見識を傾けて、いささか経文をひもといてみると、世の人は皆正しい教えに背き、人々はことごとく悪に帰しています。そのため善神は国を捨てて去り、聖人は所を辞して還りません。こうして魔が来、鬼が来て、災いが起こり、難が起こるのです。言わないわけにはいかず、恐れないわけにもいきません。客が言いました。天下の災い、国中の難は、私ひとりが嘆いているのではなく、人々が皆悲しんでいます。今、蘭の香る部屋に入って初めて美しい言葉を承りました。神聖が去り、災難が並び起こるというのは、どの経に出ているのですか。その証拠を聞かせてください。
解説

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立正安国論・『立正安国論』災いの原因は選択故に上は国主より下は土民に至るまで、皆謂えらく、経は浄土三部の外の経無く、仏は弥陀三尊の外の仏無しと。仍りて伝教・義真・慈覚・智証等、或は万里の波濤を渉りて渡せし所の聖教、或は一朝の山川を廻りて崇めし所の仏像を、高山の巓に華果を建てて以て安置するが若く、深谷の底に蓮宮を起てて以て崇重するが若くにす。釈迦・薬師の光を並ぶるや、威を現当に施し、虚空・地蔵の化を成すや、益を生後に被らしむ。故に国主は郡郷を寄せて以て燈燭を明らかにし、地頭は田園を充てて以て供養に備う。而るに法然の撰択に依りて、則ち教主を忘れて西土の仏陀を貴び、付属を抛ちて東方の如来を閣き、唯四巻三部の経典を専らにして、空しく一代五時の妙典を抛つ。是を以て弥陀の堂に非ざれば皆供仏の志を止め、念仏の者に非ざれば僧に施す懐を忘る。故に仏閣零落して瓦松の煙、空しく老い、僧房荒廃して庭草の露、屢深し。然りと雖も各護惜の心を捨て、並びに建立の思いを廃す。是を以て住持の聖僧は行きて帰らず、守護の善神は去りて来ること無し。是れ偏に法然の選択に依るなり。悲しいかな、数十年の間、百千万の人、魔縁に蕩かされて多く仏教に迷う。謗を好みて正を忘るれば、善神怒りを成さざらんや。円を捨てて偏を好む悪思、便りを得ざらんや。如かず、彼の万祈を修せんよりは、此の一凶を禁ぜんには。