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臨済録 / 行録

黃蘗云:「今日大有人普請。」便歸院。後溈山問仰山:「钁頭在黃蘗手裏,為什麼却被臨濟奪却?」仰山云:「賊是小人,智過君子。」師為黃蘗馳書去溈山,時仰山作知客,接得書便問:「這箇是黃蘗底?那箇是專使底?」師便掌,仰山約住云:「老兄知是般事便休。」同去見溈山,溈山便問:「黃蘗師兄多少眾?」師云:「七百眾。」溈山云:「什麼人為導首?」師云:「適來已達書了也。」師却問溈山:「和尚此間多少眾?」溈山云:「一千五百眾。」師云:「太多生。」溈山云:「黃蘗師兄亦不少。」師辭溈山,仰山送出,云:「汝向後北去有箇住處。」師云:「豈有與麼事?」仰山云:「但去。已後有一人佐輔老兄在,此人秖是有頭無尾、有始無終。」師後倒鎮州,普化已在彼中。師出世,普化佐贊於師。師住未久,普化全身脫去。師因半夏上黃蘗,見和尚看經,師云:「我將謂是箇人,元來是揞黑豆老和尚。」住數日乃辭去。黃蘗云:「汝破夏來,不終夏去?」師云:「某甲暫來禮拜和尚。」黃蘗遂打趁令去。師行數里,疑此事,却回終夏。師一日辭黃蘗,蘗問:「什麼處去?」師云:「不是河南,便歸河北。」黃蘗便打,師約住與一掌,黃蘗大笑,乃喚侍者將百丈先師禪板机案來。師云:「侍者將火來。」

新字:黄蘗云:「今日大有人普請。」便帰院。後溈山問仰山:「钁頭在黄蘗手裏,為什麼却被臨済奪却?」仰山云:「賊是小人,智過君子。」師為黄蘗馳書去溈山,時仰山作知客,接得書便問:「這箇是黄蘗底?那箇是専使底?」師便掌,仰山約住云:「老兄知是般事便休。」同去見溈山,溈山便問:「黄蘗師兄多少衆?」師云:「七百衆。」溈山云:「什麼人為導首?」師云:「適来已達書了也。」師却問溈山:「和尚此間多少衆?」溈山云:「一千五百衆。」師云:「太多生。」溈山云:「黄蘗師兄亦不少。」師辞溈山,仰山送出,云:「汝向後北去有箇住処。」師云:「豈有与麼事?」仰山云:「但去。已後有一人佐輔老兄在,此人秖是有頭無尾、有始無終。」師後倒鎮州,普化已在彼中。師出世,普化佐賛於師。師住未久,普化全身脱去。師因半夏上黄蘗,見和尚看経,師云:「我将謂是箇人,元来是揞黒豆老和尚。」住数日乃辞去。黄蘗云:「汝破夏来,不終夏去?」師云:「某甲暫来礼拝和尚。」黄蘗遂打趁令去。師行数里,疑此事,却回終夏。師一日辞黄蘗,蘗問:「什麼処去?」師云:「不是河南,便帰河北。」黄蘗便打,師約住与一掌,黄蘗大笑,乃喚侍者将百丈先師禅板机案来。師云:「侍者将火来。」

書き下し

黄檗云く、「今日大いに人有って普請す。」便ち院に帰る。後に潙山、仰山に問う、「钁頭は黄檗の手裏に在り、為什麼にか却って臨済に奪却せらるる。」仰山云く、「賊は是れ小人なれども、智は君子に過ぐ。」師、黄檗の為に書を馳せて潙山に去く。時に仰山、知客と作る。書を接得して便ち問う、「這箇は是れ黄檗底、那箇か是れ専使底。」師便ち掌す。仰山約住して云く、「老兄、是の般の事を知らば便ち休せよ。」同じく去いて潙山に見ゆ。潙山便ち問う、「黄檗師兄、多少の衆ぞ。」師云く、「七百衆。」潙山云く、「什麼人か導首為る。」師云く、「適来已に書を達し了れり。」師却って潙山に問う、「和尚此間は多少の衆ぞ。」潙山云く、「一千五百衆。」師云く、「太だ多生。」潙山云く、「黄檗師兄も亦た少なからず。」師、潙山を辞す。仰山送り出して云く、「汝向後北に去かば箇の住処有らん。」師云く、「豈に与麼の事有らんや。」仰山云く、「但だ去け。已後一人有って老兄を佐輔し在らん。此の人は秖だ是れ頭有って尾無く、始め有って終わり無し。」師後に鎮州に倒(到)る。普化已に彼の中に在り。師出世するや、普化、師を佐賛す。師住して未だ久しからざるに、普化全身脱去す。師、半夏に因って黄檗に上る。和尚の看経するを見て、師云く、「我将に謂えり是れ箇の人と、元来是れ黒豆を揞(あん)ずる老和尚なり。」住すること数日にして乃ち辞し去る。黄檗云く、「汝、夏を破って来たり、夏を終えずして去るか。」師云く、「某甲暫く来たって和尚を礼拝す。」黄檗遂に打って趁(お)うて去らしむ。師行くこと数里にして、此の事を疑い、却って回って夏を終う。師一日黄檗を辞す。檗問う、「什麼の処にか去る。」師云く、「是れ河南ならずんば、便ち河北に帰らん。」黄檗便ち打つ。師約住して一掌を与う。黄檗大笑して、乃ち侍者を喚んで百丈先師の禅板・机案を将ち来たらしむ。師云く、「侍者、火を将ち来たれ。」

現代語訳

黄檗は言った。「今日はずいぶんと人が作務に出ておるわ。」そう言って寺に帰った。後に潙山が仰山に問うた。「鍬は黄檗の手にあったのに、なぜ臨済に奪われたのか。」仰山は言った。「賊は小人だが、知恵は君子に勝る。」師が黄檗の手紙を届けに潙山へ行った。その時、仰山は知客(しか、来客の接待係)を務めていた。仰山は手紙を受け取るなり問うた。「これは黄檗のものだが、どれが使者(おまえ自身)のものか。」師はすぐに平手で打った。仰山は師を押さえて言った。「兄弟子よ、そういうことがわかっているならそれでよい。」一緒に潙山に会いに行くと、潙山はすぐに問うた。「黄檗師兄のところには修行僧がどれほどいるか。」師「七百人だ。」潙山「誰が指導者となっているか。」師「先ほどすでに手紙をお渡しした。」師は逆に潙山に問うた。「和尚のところには何人いるか。」潙山「千五百人だ。」師「ずいぶんと多いものだ。」潙山「黄檗師兄のところも少なくない。」師が潙山のもとを辞すると、仰山が送り出して言った。「おまえはこの先、北へ行けば住むところがあるだろう。」師「そんなことがあるものか。」仰山「ともかく行け。後に一人、兄弟子を補佐する者が現れる。ただしこの人は頭があって尾がなく、始めがあって終わりがない。」師は後に鎮州(ちんしゅう、今の河北省正定)に着いた。普化はすでにそこにいた。師が世に出て教化を始めると、普化は師を補佐した。師が住して間もなく、普化は全身ごと抜け去った。師は夏安居(げあんご、夏の九十日の修行期間)の半ばに黄檗の山へ上った。和尚が経を読んでいるのを見て、師は言った。「ひとかどの人物だと思っていたが、なんと黒豆(経文の文字)をつまんでいる老和尚だったか。」数日とどまって辞去しようとした。黄檗は言った。「おまえは安居を破って来て、安居を終えずに去るのか。」師「わたしはしばらく和尚にご挨拶に来ただけだ。」黄檗はそこで打って追い払った。師は数里行ったところでこのことに疑いを起こし、引き返して安居を終えた。師がある日黄檗のもとを辞した。黄檗が問うた。「どこへ行くのか。」師「河南でなければ河北へ帰る。」黄檗はすぐに打った。師はそれを押さえて一発平手で打ち返した。黄檗は大笑いし、侍者を呼んで百丈先師(ひゃくじょう、黄檗の師の百丈懐海)の禅板と机案を持って来させた。師は言った。「侍者よ、火を持って来い。」

解説

場面は黄檗から潙山へ、そして臨済の独り立ちへと移る。潙山への使いでは、仰山が「どれが使者のものか」と、手紙ではなく臨済自身の見処を問う。臨済の平手に仰山は「知っているならそれでよい」と応じ、別れ際に北方での住処と、始めあって終わりなき補佐役を予言した。のちの普化である。黄檗が経を読む姿を「黒豆をつまむ老和尚」と嘲って夏安居を破った臨済は、数里行って自らを疑い引き返す。傲岸に見えて、自分の判断を問い直す慎重さも持っていたのである。最後に黄檗は百丈から伝わった禅板と机案を授けようとし、臨済は「火を持て」と言う。印可の証しすら焼こうとする。受け継ぐとは、形見を大事に抱えることではない。

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