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臨済録 / 行録

師普請鋤地次,見黃蘗來,拄钁而立。黃蘗云:「這漢困那?」師云:「钁也未舉,困箇什麼?」黃蘗便打,師接住棒,一送送倒。黃蘗喚:「維那!維那!扶起我。」維那近前扶,云:「和尚爭容得這風顛漢無禮?」黃蘗纔起便打維那,師钁地,云:「諸方火葬,我這裏一時活埋。」後溈山問仰山:「黃蘗打維那意作麼生?」仰山云:「正賊走却,邏蹤人喫棒。」師一日在僧堂前坐,見黃蘗來,便閉却目。黃蘗乃作怖勢,便歸方丈。師隨至方丈禮謝,首座在黃蘗處侍立。黃蘗云:「此僧雖是後生,却知有此事。」首座云:「老和尚脚跟不點地,却證據箇後生。」黃蘗自於口上打一摑,首座云:「知即得。」師在堂中睡,黃蘗下來見,以拄杖打板頭一下。師舉頭見是黃蘗,却睡。黃蘗又打板頭一下,却往上間,見首座坐禪,乃云:「下間後生却坐禪,汝這裏妄想作什麼?」首座云:「這老漢作什麼?」黃蘗打板頭一下,便出去。後溈山問仰山:「黃蘗入僧堂意作麼生?」仰山云:「兩彩一賽。」一日普請次,師在後行,黃蘗回頭見師空手,乃問:「钁頭在什麼處?」師云:「有一人將去了也。」黃蘗云:「近前來,共汝商量箇事。」師便近前,黃蘗竪起钁頭,云:「秖這箇,天下人拈掇不起。」師就手掣得竪起,云:「為什麼却在某甲手裏?」

新字:師普請鋤地次,見黄蘗来,拄钁而立。黄蘗云:「這漢困那?」師云:「钁也未舉,困箇什麼?」黄蘗便打,師接住棒,一送送倒。黄蘗喚:「維那!維那!扶起我。」維那近前扶,云:「和尚争容得這風顛漢無礼?」黄蘗纔起便打維那,師钁地,云:「諸方火葬,我這裏一時活埋。」後溈山問仰山:「黄蘗打維那意作麼生?」仰山云:「正賊走却,邏蹤人喫棒。」師一日在僧堂前坐,見黄蘗来,便閉却目。黄蘗乃作怖勢,便帰方丈。師随至方丈礼謝,首座在黄蘗処侍立。黄蘗云:「此僧雖是後生,却知有此事。」首座云:「老和尚脚跟不点地,却証拠箇後生。」黄蘗自於口上打一摑,首座云:「知即得。」師在堂中睡,黄蘗下来見,以拄杖打板頭一下。師舉頭見是黄蘗,却睡。黄蘗又打板頭一下,却往上間,見首座坐禅,乃云:「下間後生却坐禅,汝這裏妄想作什麼?」首座云:「這老漢作什麼?」黄蘗打板頭一下,便出去。後溈山問仰山:「黄蘗入僧堂意作麼生?」仰山云:「両彩一賽。」一日普請次,師在後行,黄蘗回頭見師空手,乃問:「钁頭在什麼処?」師云:「有一人将去了也。」黄蘗云:「近前来,共汝商量箇事。」師便近前,黄蘗竪起钁頭,云:「秖這箇,天下人拈掇不起。」師就手掣得竪起,云:「為什麼却在某甲手裏?」

書き下し

師、普請して地を鋤く次いで、黄檗の来たるを見て、钁(かく)を拄えて立つ。黄檗云く、「這の漢困(つか)れたるか。」師云く、「钁も也た未だ挙げず、箇の什麼にか困れん。」黄檗便ち打つ。師、棒を接住して、一送に送倒す。黄檗喚ぶ、「維那、維那、我を扶起せよ。」維那近前して扶けて云く、「和尚、争(いか)でか這の風顛漢の無礼を容し得ん。」黄檗纔かに起きて便ち維那を打つ。師、地を钁して云く、「諸方は火葬、我が這裏は一時に活埋す。」後に潙山、仰山に問う、「黄檗の維那を打つ意作麼生。」仰山云く、「正賊は走却し、邏蹤の人棒を喫す。」師一日僧堂の前に在って坐す。黄檗の来たるを見て、便ち目を閉却す。黄檗乃ち怖るる勢を作して、便ち方丈に帰る。師随って方丈に至って礼謝す。首座、黄檗の処に在って侍立す。黄檗云く、「此の僧は是れ後生なりと雖も、却って此の事有ることを知る。」首座云く、「老和尚、脚跟地に点ぜずして、却って箇の後生を証拠す。」黄檗自ら口上に於いて打つこと一摑(いっかく)。首座云く、「知らば即ち得し。」師、堂中に在って睡る。黄檗下り来たって見て、拄杖を以て板頭を打つこと一下。師、頭を挙げて是れ黄檗なるを見て、却って睡る。黄檗又た板頭を打つこと一下して、却って上間に往き、首座の坐禅するを見て、乃ち云く、「下間の後生は却って坐禅す、汝這裏に妄想して什麼をか作す。」首座云く、「這の老漢什麼をか作す。」黄檗、板頭を打つこと一下して、便ち出で去る。後に潙山、仰山に問う、「黄檗の僧堂に入る意作麼生。」仰山云く、「両彩一賽。」一日普請の次いで、師後に在って行く。黄檗頭を回らして師の空手なるを見て、乃ち問う、「钁頭什麼の処にか在る。」師云く、「一人有り、将ち去り了れり。」黄檗云く、「近前し来たれ、汝と共に箇の事を商量せん。」師便ち近前す。黄檗、钁頭を竪起して云く、「秖だ這箇、天下の人拈掇(ねんてつ)し起こさず。」師、手に就いて掣(ひ)き得て竪起して云く、「為什麼(なにとしてか)却って某甲の手裏に在る。」

現代語訳

師が作務(普請、全員の作業)で畑を耕していたとき、黄檗がやって来るのを見て、鍬を杖にして立っていた。黄檗「こいつは疲れたのか。」師「鍬をまだ振り上げてもいないのに、何に疲れることがあろう。」黄檗はすぐに打った。師はその棒をつかみ、ぐいと突いて黄檗を倒した。黄檗は叫んだ。「維那(いの、僧堂の規律係)よ、維那よ、わしを助け起こせ。」維那が近寄って助け起こしながら言った。「和尚はどうしてこの気違いの無礼を許しておけるのか。」黄檗は起き上がるなり維那を打った。師は地面を鍬で掘りながら言った。「よその寺では火葬にするが、わしのところでは一気に生き埋めだ。」後に潙山が仰山に問うた。「黄檗が維那を打った意はどうか。」仰山は言った。「本物の賊は逃げてしまい、追っ手の者が棒を食らった。」師はある日、僧堂の前に坐っていた。黄檗が来るのを見て、目を閉じてしまった。黄檗はそこで恐れる素振りをして方丈に帰った。師は後について方丈に行き、礼を述べた。首座が黄檗のそばに控えていた。黄檗は言った。「この僧は若輩だが、かえってこの事(本分の事)があることを知っている。」首座は言った。「老和尚は足が地に着いていないくせに、こんな若造を認めるのか。」黄檗は自分の口を一つ平手で打った。首座は言った。「わかっているならそれでよい。」師が僧堂で眠っていた。黄檗が降りて来てこれを見て、拄杖で床板の端を一度打った。師は頭を上げて黄檗だとわかると、また眠った。黄檗はまた床板を一度打ち、上間(かみま、僧堂の上手の席)へ行って首座が坐禅しているのを見ると言った。「下間(しもま、下手の席)の若造がかえって坐禅しているのに、おまえはここで妄想して何をしているのか。」首座は言った。「この老いぼれは何をしているのか。」黄檗は床板を一度打って出ていった。後に潙山が仰山に問うた。「黄檗が僧堂に入った意はどうか。」仰山は言った。「一振りの賽で二つの彩が出た(一挙に両方を得た)。」ある日の作務のとき、師は後ろを歩いていた。黄檗は振り返って師が手ぶらなのを見て問うた。「鍬はどこにあるのか。」師「ある者が持っていってしまった。」黄檗「こっちへ来い。おまえと一つ相談したいことがある。」師が近寄ると、黄檗は鍬を立てて言った。「ただこれだけは、天下の誰も持ち上げることができない。」師はその手から鍬を引ったくって立てて言った。「なぜかえってわたしの手の中にあるのか。」

解説

黄檗の会下での臨済の日々を描く四つの場面である。鍬を杖に立つ臨済を黄檗が打てば、臨済はその棒を奪って師を倒し、助け起こした維那のほうが打たれる。仰山の評「正賊は走却し、邏蹤の人棒を喫す」は、真犯人は逃げ、正しそうに見える追っ手が打たれるという皮肉である。目を閉じる臨済と怖れる素振りの黄檗、眠る臨済と坐禅する首座の対比も、形の正しさではなく内に「此の事」を知るかどうかを見る師の眼を示す。最後の鍬の問答では、「天下の人が持ち上げられぬもの」を臨済が手に取って立てる。誰も持てぬと言われた本分の事は、自ら掴む者の手にある。規則を守る優等生と規則を破る問題児のどちらが本物かは、見かけだけでは決まらない。

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