李衛公問対 / 卷中
此略言其槩爾。善用兵者,推此三義而有六焉;
書き下し
此れ略して其の概を言ふのみ。善く兵を用ゐる者は、此の三義を推して六有り。
現代語訳
(孫子の「近きを以て遠きを待ち、佚を以て労を待ち、飽を以て飢を待つ」という言葉は)これはその概略を言ったにすぎない。よく兵を用いる者は、この三つの意味を推し広げて六つにする。
解説
太宗が『孫子』の「力を治む」の意味を問うたのに対し、李靖は、軍争篇の三句、すなわち近くにいて遠くから来る敵を待つ、休んでいて疲れた敵を待つ、満腹でいて飢えた敵を待つ、というのは概略にすぎないと言う。よく兵を用いる者は、この三つの意味を推し広げて六つにするというのである。短い一節で、六つの中身は次の章句に続く。古典の言葉をそのまま唱えるのではなく、原理を押さえたうえで場面に応じて展開していくという姿勢は、本書に一貫している。自軍の力を温存し、相手の力を消耗させるという考え方は、仕事でも応用が利く。無理な消耗戦に乗らず、準備の整った場所とタイミングで相手を迎える工夫は、交渉や競争でもそのまま役に立つ。
関連する章句
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李衛公問対・卷中『近きを以て遠きを待ち、佚を以て労を待ち、飽を以て飢を待つ』
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李衛公問対・卷中誘うを以て来るを待ち、静を以て躁を待ち、重きを以て軽きを待ち、厳を以て懈を待ち、治を以て乱を待ち、守を以て攻を待つ。
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李衛公問対・卷中何ぞや。」靖曰く、「兵は、已むを得ずして之を用ふ。安んぞ客と為りて且つ久しきに在らんや。『孫子』に曰く、『遠く輸(おく)れば則ち百姓貧し』と。此れ客為るの弊なり。又曰く、『役は籍を再びせず、糧は三たび載せず』と。此れ久しくすべからざるの験なり。臣主客の勢を校量するに、則ち客を変じて主と為し、主を変じて客と為すの術有り。」太宗曰く、「何の謂ぞや。」靖曰く、「『糧を敵に因る』、是れ客を変じて主と為すなり。『飽けるは能く之を飢ゑしめ、佚するは能く之を労せしむ』、是れ主を変じて客と為すなり。故に兵は主客遅速に拘はらず、唯だ発して必ず節に中(あた)る、宜しと為す所以なり。」太宗曰く、「古人に諸(これ)有りや。」靖曰く、「昔越呉を伐つに、左右の二軍を以て鼓を鳴らして進む。呉兵を分かちて之を禦ぐ。越中軍を以て潜かに渉り、鼓せず、襲ひて呉師を敗る。此れ客を変じて主と為すの験なり。石勒姫澹と戦ふに、澹の兵遠く来たる。勒孔萇を遣はして前鋒と為し、逆へて澹の軍を撃たしむ。孔萇退きて澹来たり追ふ。勒伏兵を以て之を夾撃し、澹の軍大いに敗る。此れ労を変じて佚と為すの験なり。古人此くの如き者多し。」太宗曰く、「鉄蒺藜・行馬は、太公の制する所なり。是なるか。」靖曰く、「之有り。然れども敵を拒ぐのみ。
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李衛公問対・卷下節制我に在りと云ふのみ。」太宗曰く、「両陣相臨み、戦はざるを言はんと欲するも、安んぞ得べけんや。」靖曰く、「昔晋師秦を伐ち、綏を交へて退く。『司馬法』に曰く、『奔るを逐ふこと遠からず、綏を縦(はな)つも及ばず』と。臣謂へらく綏は、轡を御するの索なり。我が兵既に節制有り、彼の敵も亦行伍を正す、豈に敢へて軽々しく戦はんや。故に出でて綏を交へ、退きて逐はざる有り、各(おのおの)其の失敗を防ぐ者なり。孫武云ふ、『堂堂の陣を撃つ勿かれ、正正の旗を邀(むか)ふる無かれ』と。若し両陣体均しく勢等しければ、苟も一たび軽肆せば、其の乗ずる所と為り、則ち或いは大いに敗る、理然らしむるなり。是の故に、兵に戦はざる有り、必ず戦ふ有り。夫れ戦はざる者は我に在り、必ず戦ふ者は敵に在り。」太宗曰く、「戦はざるは我に在りとは、何の謂ぞや。」靖曰く、「孫武云ふ、『我戦ひを欲せざれば、地を画して之を守るも、敵我と戦ふを得ざるは、其の之く所に乖(そむ)けばなり』と。敵に人有れば、則ち綏を交ふるの間、未だ図るべからざるなり。故に曰く、戦はざるは我に在りと。夫れ必ず戦ふは敵に在りとは、孫武云ふ、『善く敵を動かす者は、之に形(あらは)せば、敵必ず之に従ひ、之に予(あた)ふれば、敵必ず之を取る。利を以て之を動かし、本を以て之を待つ』と。敵に人無ければ、則ち必ず来たり戦ふ、吾得て以て乗じて之を破る。故に曰く、必ず戦ふ者は敵に在りと。」太宗曰く、「深きかな、節制の兵。
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李衛公問対・卷下靖良(やや)久しくして曰く、「誠に聖語の如し。大凡(おほよそ)兵を用ふるに、若し敵人誤らざれば、則ち我が師安んぞ能く克たんや。
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李衛公問対・卷下太宗曰く、「攻守の二事は、其の実一法か。『孫子』言ふ、『善く攻むる者は、敵其の守る所を知らず。善く守る者は、敵其の攻むる所を知らず』と。即ち敵来たりて我を攻むれば、我も亦之を攻め、我若し自ら守れば、敵も亦之を守るを言はず。攻守両(ふた)つながら斉(ひと)しき、其の術奈何。」靖曰く、「前代此に似て相攻め相守る者、多し。皆曰く、『守るは則ち足らず、攻むるは則ち余り有り』と。便ち足らざるを弱と為し、余り有るを強と為すと謂ふ。蓋し攻守の法を悟らざるなり。臣『孫子』を案ずるに云ふ、『勝つべからざる者は、守るなり。勝つべき者は、攻むるなり』と。
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