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楽訓 / 巻之下・後論

一もし不幸にしてうれひ多からば、我が身はもとよりかゝれとてこそ生れけめと思ひ、天命にまかせて、死ぬるまでは樂み、憂なくして過さまほし。達人は命を知りて憂なし。一世には、白髪を見ずして死する人多し。道を知らずして死ぬるは、殊にうらみ多し。此世のありさまをだに知らで、世を早くする事をしむべし。我がともがら白髪を見る事久し。幸とすべし。東坡が詩に、人は白髪を見てうれひ、我は白髪を見てよろこぶといひしもむべなり。

新字:一もし不幸にしてうれひ多からば、我が身はもとよりかゝれとてこそ生れけめと思ひ、天命にまかせて、死ぬるまでは楽み、憂なくして過さまほし。達人は命を知りて憂なし。一世には、白髪を見ずして死する人多し。道を知らずして死ぬるは、殊にうらみ多し。此世のありさまをだに知らで、世を早くする事をしむべし。我がともがら白髪を見る事久し。幸とすべし。東坡が詩に、人は白髪を見てうれひ、我は白髪を見てよろこぶといひしもむべなり。

書き下し

一もし不幸にしてうれひ多からば、我が身はもとよりかかれとてこそ生れけめと思ひ、天命にまかせて、死ぬるまでは楽み、憂なくして過さまほし。達人は命を知りて憂なし。一世には、白髪を見ずして死する人多し。道を知らずして死ぬるは、殊にうらみ多し。此世のありさまをだに知らで、世を早くする事をしむべし。我がともがら白髪を見る事久し。幸とすべし。東坡が詩に、人は白髪を見てうれひ、我は白髪を見てよろこぶといひしもむべなり。

現代語訳

もし不幸にして憂いが多ければ、自分の身はもともとこうなるように生まれたのだろうと思い、天命に任せて、死ぬまでは楽しみ、憂いなく過ごしたいものです。達人は命を知って憂いがありません。世には白髪を見ずに死ぬ人が多い。道を知らずに死ぬのは、ことに恨みが多い。この世のありさまさえ知らずに、早く世を去るのは惜しいことです。私たちは白髪を見ることが久しい。幸いとすべきです。東坡(蘇軾)の詩に「人は白髪を見て憂え、私は白髪を見て喜ぶ」と言ったのももっともです。

解説

憂いが多いときは「こうなるように生まれたのだ」と天命に任せ、死ぬまで楽しんで過ごしたいと述べます。これは『楽訓』総論に引かれた土御門院の御歌「うき世にはかゝれとてこそ生れけめ」を思わせる言い方です。さらに、白髪を見ずに亡くなる人が多いなか、長く白髪を見られるのは幸いだとし、蘇軾の詩句を引きます。白髪やしわを老化の印として嫌うか、生き延びてきた証として喜ぶかは、心の持ちよう一つだと気づかせてくれます。

この章句が説くこと

老い天命長寿憂い楽しみ

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