楽訓 / 巻之下・後論
一老いては彌人をむさぼらず、物ごとに慮ふかくして、人を妄にそしらず、いからず、人の妨とならず、人の我に無禮不仁なるをこらへて怒りうらみず、人ごとに君子ならざれば、かくこそあるべけれと思ひて、心にかけて苦みうれへず、貧賤を甘んじて、身やすく心閑にして樂むべし。
新字:一老いては弥人をむさぼらず、物ごとに慮ふかくして、人を妄にそしらず、いからず、人の妨とならず、人の我に無礼不仁なるをこらへて怒りうらみず、人ごとに君子ならざれば、かくこそあるべけれと思ひて、心にかけて苦みうれへず、貧賤を甘んじて、身やすく心閑にして楽むべし。
書き下し
一老いては弥人をむさぼらず、物ごとに慮ふかくして、人を妄にそしらず、いからず、人の妨とならず、人の我に無礼不仁なるをこらへて怒りうらみず、人ごとに君子ならざれば、かくこそあるべけれと思ひて、心にかけて苦みうれへず、貧賤を甘んじて、身やすく心閑にして楽むべし。
現代語訳
老いてはいよいよ人に貪り求めず、何事にも思慮を深くして、人をみだりにそしらず、怒らず、人の妨げとならず、人が自分に無礼や不仁をしてもこらえて怒り恨まず、人はみな君子ではないのだから、こういうこともあるだろうと思って、心にかけて苦しみ憂えず、貧賤に甘んじて、身は安らかに心は静かにして楽しむべきです。
解説
老年の心得を一息に述べた一条です。人に求めず、そしらず、怒らず、妨げにならず、無礼を受けても恨まない、なぜなら人はみな君子ではないから、と益軒は言います。他人に完璧を求めないことで、自分の心の平安が守られるという考え方です。年を重ねると頑固になったり、周りへの不満が増えたりしがちですが、益軒は逆に寛容になることを老いの楽しみの条件としました。家族や職場で年長者になったときの振る舞いの指針として、今も通用する教えです。
この章句が説くこと
老い寛容怒り心楽しみ
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