楽訓 / 巻之下・後論
一人ごとに生れつきたる樂あれども、學ばざれば、己が物なりながら知らず。衆人の樂はみな外欲にあり。是をほしいまゝにすれば、却て我が身のわざはひも是よりおこる。君子は學んで道を樂み、命を安んじて貧をうれへず。閑を得ては書をよみ、時節を感じ、風景を翫び、月花をめで、詩歌を吟し、草木を愛する、此あまたの事、かはるがはる樂まば、朝夕の樂きはまりなかるべし。老いては、心やすく身樂にして、貧賤を甘んずるこそ、折にかなひて宜しかるべけれ。かゝる時樂まずんば、日月逝きて止らず。をしむべし。かくの如く、世にきはまりなき樂あるを知らで、何となく憂ひくるしみて過さんは、まことに不幸の人、一生を空しくすといふべし。
新字:一人ごとに生れつきたる楽あれども、学ばざれば、己が物なりながら知らず。衆人の楽はみな外欲にあり。是をほしいまゝにすれば、却て我が身のわざはひも是よりおこる。君子は学んで道を楽み、命を安んじて貧をうれへず。閑を得ては書をよみ、時節を感じ、風景を翫び、月花をめで、詩歌を吟し、草木を愛する、此あまたの事、かはるがはる楽まば、朝夕の楽きはまりなかるべし。老いては、心やすく身楽にして、貧賤を甘んずるこそ、折にかなひて宜しかるべけれ。かゝる時楽まずんば、日月逝きて止らず。をしむべし。かくの如く、世にきはまりなき楽あるを知らで、何となく憂ひくるしみて過さんは、まことに不幸の人、一生を空しくすといふべし。
書き下し
一人ごとに生れつきたる楽あれども、学ばざれば、己が物なりながら知らず。衆人の楽はみな外欲にあり。是をほしいままにすれば、却て我が身のわざはひも是よりおこる。君子は学んで道を楽み、命を安んじて貧をうれへず。閑を得ては書をよみ、時節を感じ、風景を翫び、月花をめで、詩歌を吟し、草木を愛する、此あまたの事、かはるがはる楽まば、朝夕の楽きはまりなかるべし。老いては、心やすく身楽にして、貧賤を甘んずるこそ、折にかなひて宜しかるべけれ。かかる時楽まずんば、日月逝きて止らず。をしむべし。かくの如く、世にきはまりなき楽あるを知らで、何となく憂ひくるしみて過さんは、まことに不幸の人、一生を空しくすといふべし。
現代語訳
人にはそれぞれ生まれつき楽しみがあるけれども、学ばなければ、自分のものでありながら知りません。多くの人の楽しみはみな外の欲にあります。これをほしいままにすると、かえって自分の身の災いもここから起こります。君子は学んで道を楽しみ、天命に安んじて貧しさを憂えません。暇を得ては書を読み、季節に感じ、風景を楽しみ、月や花を愛で、詩歌を吟じ、草木を愛する、これら多くのことをかわるがわる楽しめば、朝夕の楽しみは尽きることがないでしょう。老いては、心安らかに身も楽にして、貧賤に甘んじることこそ、年齢にかなってよろしいのです。そういう時に楽しまなければ、月日は過ぎ去って止まりません。惜しいことです。このように世に限りない楽しみがあるのを知らずに、何となく憂え苦しんで過ごすのは、まことに不幸な人で、一生を空しくすると言うべきです。
解説
この章句が説くこと
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