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楽訓 / 巻之下・読書

一およその事、友を得ざれば爲しうべからず。唯讀書の一事は、友なくてひとり樂むべし。一室の内に居て、天下四海の内を見、天地萬物の理を知る。數千年の後にありて、數千年の前を見る。今の世にありて、古の人に對す。我が身おろかにして、聖賢にまじはる。是皆讀書の樂なり。凡よろづのことわざの內、讀書の益にしく事なし。然るに世の人これを好まず。其不幸甚し。これを好む人は、天下の至樂を得たりと云ふべし。

新字:一およその事、友を得ざれば為しうべからず。唯読書の一事は、友なくてひとり楽むべし。一室の内に居て、天下四海の内を見、天地万物の理を知る。数千年の後にありて、数千年の前を見る。今の世にありて、古の人に対す。我が身おろかにして、聖賢にまじはる。是皆読書の楽なり。凡よろづのことわざの内、読書の益にしく事なし。然るに世の人これを好まず。其不幸甚し。これを好む人は、天下の至楽を得たりと云ふべし。

書き下し

一およその事、友を得ざれば為しうべからず。唯読書の一事は、友なくてひとり楽むべし。一室の内に居て、天下四海の内を見、天地万物の理を知る。数千年の後にありて、数千年の前を見る。今の世にありて、古の人に対す。我が身おろかにして、聖賢にまじはる。是皆読書の楽なり。凡よろづのことわざの内、読書の益にしく事なし。然るに世の人これを好まず。其不幸甚し。これを好む人は、天下の至楽を得たりと云ふべし。

現代語訳

たいていの事は、友を得なければ成し遂げられません。ただ読書の一事だけは、友がいなくても独りで楽しめます。一室の中にいて天下四海の内を見、天地万物の道理を知る。数千年の後にいて数千年前を見る。今の世にいて昔の人に向き合う。自分は愚かであっても聖賢と交わる。これはみな読書の楽しみです。およそあらゆる営みの中で、読書の益に及ぶものはありません。それなのに世の人はこれを好みません。その不幸ははなはだしいものです。これを好む人は、天下の至上の楽しみを得たと言うべきです。

解説

読書の独自の価値を、たたみかけるような対句でまとめた一節です。部屋にいながら天下を見、数千年後にいて数千年前を見、愚かな身で聖賢と交わる、という表現は、読書が時間と空間と身分の隔たりを越える営みであることを鮮やかに示します。人付き合いが必要な楽しみが多いなかで、読書は一人で完結できるのも魅力です。孤独を感じる時や、相談相手がいない時にも、本を通じて古今の賢者と対話できる、という益軒の言葉は今も励ましになります。

この章句が説くこと

読書独り聖賢楽しみ学問

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