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楽訓 / 巻之下・読書

今目の前なる事のみを見て、古のふみを知らざるは、きはめて頑し。人不通古今、馬牛而襟裾すと、韓退之もいへり。ふるき書を見ず、古の道を知らざる人は、萬の理にくらく、もろもろの事を知らず、夢見てさめざるが如く、まよひて一生を過す。是大なる不幸なるかな。およそ古今の書に通じて、理をきはめ、事を知れらば、我が心の内、萬物の理見る事聞く事にうたがひ無くして、大なる樂なるべし。古のふみを知らざれば、からやまと、古今、天地の内にみちみちたる理も事も、みな通ぜずしてくらしと云ふべし。

新字:今目の前なる事のみを見て、古のふみを知らざるは、きはめて頑し。人不通古今、馬牛而襟裾すと、韓退之もいへり。ふるき書を見ず、古の道を知らざる人は、万の理にくらく、もろもろの事を知らず、夢見てさめざるが如く、まよひて一生を過す。是大なる不幸なるかな。およそ古今の書に通じて、理をきはめ、事を知れらば、我が心の内、万物の理見る事聞く事にうたがひ無くして、大なる楽なるべし。古のふみを知らざれば、からやまと、古今、天地の内にみちみちたる理も事も、みな通ぜずしてくらしと云ふべし。

書き下し

今目の前なる事のみを見て、古のふみを知らざるは、きはめて頑し。人古今に通ぜざれば、馬牛にして襟裾すと、韓退之もいへり。ふるき書を見ず、古の道を知らざる人は、万の理にくらく、もろもろの事を知らず、夢見てさめざるが如く、まよひて一生を過す。是大なる不幸なるかな。およそ古今の書に通じて、理をきはめ、事を知れらば、我が心の内、万物の理見る事聞く事にうたがひ無くして、大なる楽なるべし。古のふみを知らざれば、からやまと、古今、天地の内にみちみちたる理も事も、みな通ぜずしてくらしと云ふべし。

現代語訳

今目の前のことだけを見て、昔の書物を知らないのは、きわめて頑なです。「人が古今に通じていなければ、牛馬が衣服を着ているようなものだ」と韓退之(韓愈)も言いました。古い書物を読まず、昔の道を知らない人は、あらゆる道理に暗く、さまざまな事を知らず、夢を見て覚めないように、迷ったまま一生を過ごします。これは大きな不幸です。およそ古今の書に通じて道理をきわめ、物事を知っていれば、自分の心の内で、万物の道理や見聞きする事に疑いがなくなり、大きな楽しみとなるでしょう。昔の書物を知らなければ、中国と日本、古今、天地の間に満ちている道理も事柄も、みな通じずに暗いままだと言うべきです。

解説

唐の韓愈の詩「符読書城南」にある「人不通古今、馬牛而襟裾」を引き、古典を読まない人は衣を着た牛馬のようだと厳しく戒めます。益軒は、目先のことしか見ない生き方を「夢を見て覚めない」状態にたとえ、古今の書に通じて道理がわかれば、見聞きすることに迷いがなくなり、それ自体が大きな楽しみになると説きます。目の前のニュースやSNSだけで判断していると、同じ失敗を繰り返しがちです。歴史や古典という長い物差しを持つことが、迷いを減らす近道だと教えてくれます。

この章句が説くこと

読書古典道理学問迷い

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