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楽訓 / 巻之中・節序

冬ごもりせし梢の枯れたるも、ふたゝび花さけるが如し。ことさら冬の夜のすめる月に、雪の光りあひたる空こそ、見る人なく、ひとり身にしみて、あはれも深けれ。空霽れて後まで、友待つばかり所々に消え殘りたるはだれ雪も、いと心にくし。かゝる時、するわざなく、唯袖くゝみして、いらゝぎ居る人は、いとわびしげに見ゆ。或は埋火にむかひ、文をまきひろぐるを以てわざとする人は、樂深くぞありぬべき。凡の事、年に先立ちて早くはかるべし。若き時つとめて文をよみ習はゞ、かかる時もわびしかるまじ。

新字:冬ごもりせし梢の枯れたるも、ふたゝび花さけるが如し。ことさら冬の夜のすめる月に、雪の光りあひたる空こそ、見る人なく、ひとり身にしみて、あはれも深けれ。空霽れて後まで、友待つばかり所々に消え残りたるはだれ雪も、いと心にくし。かゝる時、するわざなく、唯袖くゝみして、いらゝぎ居る人は、いとわびしげに見ゆ。或は埋火にむかひ、文をまきひろぐるを以てわざとする人は、楽深くぞありぬべき。凡の事、年に先立ちて早くはかるべし。若き時つとめて文をよみ習はゞ、かかる時もわびしかるまじ。

書き下し

冬ごもりせし梢の枯れたるも、ふたたび花さけるが如し。ことさら冬の夜のすめる月に、雪の光りあひたる空こそ、見る人なく、ひとり身にしみて、あはれも深けれ。空霽れて後まで、友待つばかり所々に消え残りたるはだれ雪も、いと心にくし。かかる時、するわざなく、唯袖くくみして、いららぎ居る人は、いとわびしげに見ゆ。或は埋火にむかひ、文をまきひろぐるを以てわざとする人は、楽深くぞありぬべき。凡の事、年に先立ちて早くはかるべし。若き時つとめて文をよみ習はば、かかる時もわびしかるまじ。

現代語訳

冬ごもりした枯れ梢も、雪が積もって再び花が咲いたようです。ことに冬の夜の澄んだ月に雪の光が照り合う空こそ、見る人もなく、ひとり身にしみて、あわれも深いものです。空が晴れた後まで、次の雪を待つかのように所々に消え残ったまだら雪も、たいそう奥ゆかしいものです。このような時、することもなく、ただ袖に手を包んで寒さに震えている人は、たいそうわびしげに見えます。あるいは埋み火に向かって、書物を広げることを仕事とする人は、楽しみが深いでしょう。およそ物事は、年に先立って早く計画すべきです。若い時に努めて書物を読み習っておけば、このような時もわびしくはないでしょう。

解説

冬の雪月の美しさと、冬ごもりの過ごし方を説く段です。枯れ枝に積もる雪を花にたとえ、雪と月が照り合う夜空を讃えます。そして寒さの中、何もせず袖に手を入れて震えている人はわびしく見えるが、埋み火のそばで書物を開く人は楽しみが深い、と対比します。ここから、若いうちに読書の習慣を身につけておけば老いてもわびしくない、という人生の教訓に広げるのが益軒らしいところです。退屈や孤独を和らげる力は、長い時間をかけて育てた趣味や学びにあるという考えは、今の生涯学習にも通じます。

この章句が説くこと

読書冬学問老い準備

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